後路 吟行
 

訪越後路        相澤 克典

田園苅稻四山幽 田園稲を苅りて 四山幽なり

紅葉搖搖已晩秋 紅葉揺々 已に晩秋

盡日逍遙風籟爽 尽日逍遥 風籟爽やかに

仰天停歩白雲流 天を仰ぎ歩を停れば 白雲流る

 
 

登國上山        青木 智江

欲訪空庵幽翠岑 空庵を訪れんと欲す 幽翠の岑

松陰時憩聽鳴禽 松陰 時に憩ひて鳴禽を聴く

良寛何故幾年住 良寛 何故に幾年か住む

棄世捐身淸切心 世を棄て身を捐つ 清切の心

 
 

訪五合庵        秋葉 暁子

森森老樹迫旻穹 森々(しんしん)たる老樹 旻穹に迫り

籬畔茶梅將發紅 籬畔の茶梅 将に紅を発かんとす

庵室翠深詩趣足 庵室 翠深く詩趣は足(た)

良寛何處只吟蟲 良寛は何れの処ぞ 只だ吟虫

 
 

訪諸橋轍次博士故里   安食 敏子

越後孤村秋色佳 越後の孤村 秋色佳なり

忽看拔地聳懸崖 忽ち看る 地を抜き懸崖聳ゆるを

傳聞朝夕必相對 伝へ聞く 朝夕必ず相ひ対し

常育雄飛禹 常に禹域に雄飛せんとする懐ひを育むと

 
 

五合庵         岡安 千尋

深山苔徑繞煙嵐 深山苔径 煙嵐繞る

正似西行吉野 正に西行𠮷野の庵に似たり

隱遁何如幽絶處 隠遁何如ん 幽絶の処

黄紅葉葉彩粧酣 黄紅葉々 彩粧酣(たけなわ)なり

 
 

五合庵         加藤  武

庵在山巓月似蛾 庵は山巓に在りて月蛾に似たり

寥寥三界雪娑娑 寥々たる三界 雪娑々たり

飢寒母子相扶上 飢寒の母子 相ひ扶(ささ)へて上る  

無食良寛奈是何 (じき)無き良寛 是れを奈何せん

 
 

八幡神宮良寛詩碑    清水 蕗山

聞道此邊存石碑 聞道(きくなら)く 此の辺に石碑を存すと

遍探境内寸心馳 遍く境内を探り 寸心馳す

將歸偶看綠陰下 将に帰らんとして偶(たまたま)看る 緑陰の下

曼草幽乞食詩 曼草幽かに蒙(おお)ふ 乞食の詩

 
 

過諸橋轍次博士生家   清水 蕗山

舊家寂寞古香留 旧家 寂寞として古香を留む

窓畔机邊風冷秋 窓畔机辺 風冷ややかなる秋

偉業誰知天下甲 偉業誰か知らん天下に甲たるを

山村禾穗悉垂頭 山村の禾穂悉(ことごと)く頭を垂る

 
 

彌彦山望佐渡島     杉田 義久

颯颯西風秋氣淸 颯々たる西風 秋気清く

悠悠靑島眼前横 悠々たる青島 眼前に横たはる

昔時金鑛隆昌處 昔時 金鑛隆昌の処

今望白雲閑獨生 今望む 白雲閑かに独り生ずるを

 
 

過五合庵逢行者     鷲野 直美

峻崖草屋晝猶曚 峻崖の草屋 昼 猶ほ曚し

石磴苔蒸路没叢
 石磴苔蒸し 路 叢に没す

橋畔豁然淸水望 橋畔豁然 清水を望めば

吹螺忽起響山中 吹螺 忽ち起こりて山中に響く

 
 

登彌彦山        宮﨑 三郎

籃吊向天登不休 籃吊(らんちょう)天に向かひ 登りて休まず

瞰臨山麓十分秋 瞰臨する山麓 十分の秋

嘉禾萬頃黄雲漾 嘉禾(かか)万頃 黄雲漾ふ

麥花開白浪悠 蕎麦花開きて白浪悠なり

 
 

登彌彦山望佐渡島    宮﨑 三郎

民謠閑響引羇愁 民謡 閑かに響きて羇愁を引

忘靑春昔日遊
 忘れ難し青春 昔日の遊

島影蒼蒼程幾里 島影蒼々 程幾里

北天目送一銀鷗
 北天 目送す一銀鷗