鷲野正明 第3回台湾研修 旅行案内 

                            ※千葉漢詩連盟会報22号から
  吟行会は、観光地や史跡を漫然と巡るだけでは意味がない。その土地や歴史とどう向きあうか、その土地の人々の「こころ」にどう迫るかが大切である。その深浅によって詩作の深浅も生まれる。海外吟行では言葉の問題や人脈の問題から難しい側面もあるが、幸い千葉県漢詩連盟では旅程のどこかで必ず当地の詩人・文人と交流することにしている。今回もそうだった。高雄で、一般の観光では決して体験できないことを体験してきた。観光バスで国立中山大学の構内へ入り、一般人の入ることの出来ない歴史建造物の中を自由に見学し、さらに大学の教授陣と交流したのである。
 千葉県漢詩連盟創立十周年記念の掉尾を飾る行事・海外研修は、平成二十八年三月二十二日から二十六日にわたって臺灣で行われた。臺灣は第二回海外研修に引き続き二回目で、前回は高雄・鵝鑾鼻・台南・日月潭・台中・台北と西回りで北上したが、今回は高雄・知本・花蓮・太魯閣・九份・台北と東回りで北上した。参加者は十六名、うち非会員は七名。添乗員は前回と同じ日中平和観光の白川さん。柏梁体連句にも参加した。現地ガイドも前回と同じ王麗鳳さん。行程は以下の通りである。
 3月22日

 一五時成田空港から高雄空港へ。着後、国立中山大学の簡錦松教授とともに海王子にて夕食。のち夜の愛河を舟遊し、ホテル漢来大飯店へ。
 
 3月23日 

八時三〇分、国立中山大学へ向けて出発。簡錦松教授の案内で庭園内の孫文と蒋介石の像を見学。ついで、かつて蒋介石が住んでいた「蒋公行館」を見学。ここは一般の観光客は入れない。ゆっくり見学し、外で学内バスを待っていると木の下でリスが餌を食べていた。猿を見ることもあるという。学内バスで文学院へ。アプローチの石段で記念撮影をして清園へ。ここに、猿がいた。二匹。我々が喜んで騒ぐとゆっくりと去る。
文学院大楼の八階から雨上がりの西子灣を望む。教室に入ると、画家で書家の石忘塵教授が控えていて、我々一人一人に自作の絵や書をあしらったコースターをプレゼントしていただき、簡教授からは『袖珍詩韻』をいただく。作詩のさい重宝する詩韻集である。
鷲野が中山大学を再び訪れたことを詩に詠むと、我々の目の前で石教授が絵をかいてその空白に詩を書いてくださった。書家の陳教授も鷲野の詩を揮毫。こちらからは菅原有恒事務局長が見事な隷書で揮毫し、清水蕗山幹事長が美声で吟詠。また簡教授が台湾語で朗読し、吟じてくださった。
お返しの漢詩を、簡教授二首、陳教授、三年次生の学生が作り、石教授と陳教授が書にして贈呈してくれた。最後に石教授から作品集を二種三冊ずついただき、名残を惜しみながら中山大学を後にした。教授陣は午後から授業があるらしく、時間を気にしていたが、その忙しいところを我々のために時間を割いてくださったのである。感謝。
昼食は市内のレストラン翰品酒店。食後は台東県の知本へ向けて出発。休憩を取りながら、午後五時半ころに宿泊のホテル知本老爺酒店に到着。食後、年ごろは十代の原住民(臺灣ではそう言う)の歌舞を鑑賞。動きの激しいバンブーダンスもあり、見応えがあった。アトラクションとして行われたクジ引きに清水幹事長が当選。最後に踊り子と一緒に踊る時間帯では、清水幹事長が軽やかなステップで若い踊り子と手をつないで踊り、宴会部長の名をほしいままにしたのであった。
 


 3月24日 

九時、花蓮へ向けて出発。途中、三仙台を見学。あいにくの雨風。花蓮に着くと康楽漁村海鮮餐廳で郷土料理を食し、隣の大理石工場を見学、そして買い物。バスでいよいよ太魯閣渓谷へ。峡谷の入口で記念写真を撮り、遊客中心で資料を閲覧し、さらに奥へとバスを進め、原住民が歩いたという小径を散策。さらにバスで奥へ進み、「長春祠」の見える休憩所で景色を眺める。狭い所に大陸の観光客がひしめいていた。渓谷はさらに奥まで続くが、短時間の観光ではここまでのようだ。一六時五〇分ホテル美倫大飯店へむけて出発。車中、漢詩の勉強。七時夕食
 
3月25日 

これまでの移動はすべて専用バスだったが、この日は列車に乗る。一〇時一三分、花蓮駅発彰化行きの急行。一二時三分、七堵駅着。専用のバスで九份へ。山の上から坂道、石段を下りながら店を覗きこみ、見晴らしのよいレストラン九份山城で昼食。自由散策中は雨が降り寒い。階段を下りきってバスに乗りこみ、忠烈祠へ。午後四時の衛兵交替を見学。買い物をしてホテル美麗信花園酒店へ。 
 
 3月26日

 久しぶりに青空を見た。八時ホテルを出発し、故宮博物館へ。ガイドの手際のよい誘導と説明でポイントを押さえることができた。一一時半、鼎泰豊で昼食。食後、空港へ。出発が遅れ、成田には二〇時三〇分頃(日本時間)に到着した。
天候は、高雄と台北では良かったが、その他は雨・風で、寒かった。北回帰線を越えると一気に寒くなったような気がした。寒いうえにバスでの移動が長く、体調を崩す人もいたが、日頃の精進のお陰か、すぐに治った。非会員の方もすぐにうち解け、和気藹々のうちに充実した吟行を終えたのであった。