城嶺夕照　　　　　　　　　青木智江

城跡探行嶺已荒　城跡探り行けば嶺已に荒る

繁華盡滅鳥空翔　繁華尽く滅して鳥空しく翔ける

今猶古樹丘陵上　今猶ほ古樹丘陵の上

綠蓋遙遙待夕光　緑蓋遥遥として夕光を待つ

　尋臼井城址公園　　　　　秋葉曉子

荒臺習習綠陰風　荒台習習緑陰の風

一叫杜鵑啼愈空　一叫杜鵑啼ひて愈いよ空し

戰禍忠魂誰有識　戦禍の忠魂誰れか識る有らん　

澄湖遙望倚幽叢　澄湖遥かに望む幽叢に倚るを

　光勝晩鐘　　　　　　　　　薄井蹊山

澄湖渺渺碧瀾平　澄湖渺渺碧瀾平らかなり

遠望紫峰雙耳橫　遠く望めば紫峰双耳横たわる

雲去斜陽將没處　雲去り斜陽将に没せんとする処

破閑隱隱古鐘聲　閑を破りて隠隠たり古鐘の声

　訪臼井城址　　　　　　　　加藤　武

古陵夏日白雲鮮　古陵夏日　白雲鮮やかなり

遠見澄湖泛釣船　遠く見る澄湖釣船泛ぶを

荒草茫茫都似夢　荒草茫茫　都て夢の似し

思回四百有餘年　思いは回る四百有余年

　臼井城趾　　　　　　　　　斎藤房江

夏初拂袖一淸風　夏初袖を払ふ一清風

城趾周遊事事空　城趾周遊すれば事事空し

遠見澄湖今尚在　遠く見れば澄湖今尚ほ在り

千齢老樹夕陽紅　千齢の老樹夕陽紅なり

　臼井訪舟戸夜雨　　　　　　清水蕗山

沼塘引杖嫩葭搖　沼塘杖を引けば嫩葭揺らぎ

野渡蕭然葦雀囂　野渡蕭然葦雀囂し

盡日呼舟何有到　尽日舟を呼べども何ぞ到る有らん

只餘勝地建荒標　只だ勝地を余して荒標建つのみ

　臼井八景吟行　其一　圓應寺臼井八景有感　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　菅原有恒

畫得潚湘明媚粹　画き得たり　潚湘明媚の粋を

海東膾炙足幽探　海東に膾炙して幽探するに足る

高僧精選印旛勝　高僧　精選す印旛の勝

添景詩歌樂且湛　景に添う詩歌　樂しみ且つ湛しまん

臼井八景吟行　其二　舟戸夜雨　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　菅原有恒

蘆荻芒芒渡口崩　蘆荻芒芒　渡口崩る

白雲倒泛水空澄　白雲倒に泛ぶ水空しく澄む

偶逢老叟舊時語　偶たま逢う老叟　旧時を語る

夜雨舟航耿耿燈　夜雨の舟航　耿耿たる燈

　臼井八景　　　　　　　　　冨樫美代子

此地風光有詠歌　此の地の風光詠歌有り

今天興趣又如何　今天の興趣又た如何

行行八景遍懷古　八景を行き行きて偏に古を懐ふ

寄思鐘聲獨坐坡　思ひを鐘声に寄せ独り坡に坐す

　訪圓應寺　　　　　　　　　長島ツタエ

下陵忽到寺門前　陵を下りて忽ち到る寺門の前

老樹陰濃斷俗縁　老樹陰濃やかにして俗縁を断つ

戰亂英靈安息處　戦乱の英霊安息する処

墓碑欲拝綠苔鮮　墓碑拝さんと欲すれば緑苔鮮やかなり

　光勝夕陽　　　　　　　　　芳野禎文

寺鐘誰打碧湖邊　寺鐘誰か打つ碧湖の辺

光勝夕陽猶未姸　光陽夕陽猶ほ未だ姸ならず

遙憶昔人譽午景　遥かに憶ふ昔人午景を誉むるを

水禽一叫白雲天　水禽一叫白雲の天

　城址蒼蒼　　　　　　　　　宮﨑三郎

古苔滿地綠陰繁　古苔地に満ち緑陰繁し

土壘空壕跡尚存　土塁空壕跡尚ほ存す

幾度興亡都似夢　幾度の興亡ぞ都て夢の似し

斜曛穿處一蝉喧　斜曛穿つ処一蝉喧し