訪總州流山      髙橋秀彰
商舗連甍刀水頭 商舗甍を連ぬ刀水の頭
賈船簇簇滿洪流 賈船簇々として洪流に満つ
不關今日繁榮盡 関せず今日繁栄尽くるを
古渡舊臺堪雅遊 古渡旧台雅遊に堪へたり

〔総州流山を訪ねて〕 
かつて利根川のほとりには商店が立ち並び、広い川は集まってくる商船でいっぱいになっていた。今、繁栄した町の面影はないが、それはそれで構わない。古い渡し場やたかどのは今でも詩文の遊びにはふさわしいのだから。
 
  訪閻魔堂 金子市之丞墓有感 安食敏子
偸盗墓園空在茲 偸盗の墓園空しく茲に在り
江都落托破生涯 江都に落托す破生涯
閻魔果已許容否 閻魔は果たして已に許容せしや否や
供物菊花香古碑  供物の菊花古碑に香る
 
  訪流山一茶雙樹亭   安食敏子
騒客遠來雙樹亭 騒客遠く来る双樹亭
一茶嘗亦歩中庭 一茶嘗て亦た中庭を歩む
錦雲燦爛氣淸處 錦雲燦爛として気清き処
獨讀琅玕勒石銘 独り詠ふ琅玕石に勒するの銘
 
  訪一茶双樹記念館    青木智江
石庭煮茗對天晴 石庭茗を煮て天晴に対す
小鳥來啼秋色淸 小鳥来り啼きて秋色清し
一啜一吟思昔處 一啜一吟昔を思ふ処
風搖楓樹落紅明 風は楓樹を揺らして落紅明らかなり
 
  萬滿寺水掛不動尊   薄井蹊山
泉水涓涓古刹隈 泉水涓々たり古刹の隈
明王衣潤帶蒼苔 明王衣潤ひて蒼苔を帯ぶ
傳聞風疾有靈験 伝聞す風疾に霊験有りと
濺願康寧杓一杯 濺いで康寧を願ふ杓一杯
 
  一茶双樹庵       薄井蹊山
双樹傍庵秋氣充 双樹庵に傍ひて秋気充つ
一茶傾碗小春中 一茶碗を傾く小春の中
遠懐騒客相吟處 遠く懐ふ騒客相ひ吟ずる処
絡緯滿庭霜葉紅 絡緯満庭霜葉紅なるを
 
  淺閒神社富士塚     清水蕗山
三丈小丘靈氣充 三丈の小丘霊気充ち
綠陰蔚蔚妙姿雄 緑陰蔚々妙姿雄たり
攀岩整息眞山望 岩を攀じ息を整へ真山望めば
只見街衢夕日紅 只だ見る街衢夕日紅なり
 
  常與寺         信木充子
總州古邑訪禪宮 総州の古邑禅宮を訪ぬ
忽見濃粧一樹楓 忽ち見る濃粧一樹の楓
人去讀經聲已斷 人去り経を読む声は已に断え
落陽映處爲誰紅 落陽映ずる処誰が為に紅なるや
 
  赤城神社 無患子(むくろじ) 宮﨑尚堂
宮前母子祷淸風 宮前の母子清風に祷り
樹下何求笑語充 樹下何をか求めて笑語充つ
収得黑球無患種 収め得たり黒球患ひ無きの種
恐爲玩具護嬌童 恐らく玩具となして嬌童を護らん

(註)無患子= ムクロジ科の落葉高木。黒色球形の種子は「羽つき」の羽根の球や数珠に使われる。樹名には「子供の厄除け(無病息災)」の思いが込められている。
 
  國寶仁王尊 萬滿寺   宮﨑尚堂
八尺仁王五體玄 八尺の仁王五体玄く
袒肩瞋目並凝然 肩を袒ぎ目を瞋らし並びて凝然たり
傅聞護衆多功德 伝へ聞く衆を護り功徳多しと
除疾息災將幾年 疾を除き災ひを息め将に幾年ならんとす