鷲野先生の解説に続き、日本の吟界の第一人者の方たちによる吟詠を聞くことができます。どうぞお楽しみください。 
         
Eテレ
 吟詠・夏にうたう

解説:鷲野正明
 
 放送予定日  令和4年6月26日(日)14時30分~14時45分  NHK
Eテレ
  
                和歌 箱根路を            源 実朝

              太田道灌蓑を借るの図に題す     作者不詳

              七言絶句 「初夏即時」        王安石

              七言律詩 「帰省」          狄仁傑 
          

   
  和歌・箱根路を       源実朝
 
箱根路を わが越えくれば 伊豆の海や 
沖の小島に 波の寄る見ゆ


箱根路を越えてくると、急に広々とした伊豆の海が眼下に開け、
沖の小島に波が打ち寄せているのが見える。

 
  太田道灌蓑を借るの図に題す   作者不詳

孤鞍衝雨叩茅茨  孤鞍雨を衝いて茅茨を叩く
少女爲遺花一枝  少女為に遺る花一枝
少女不言花不語  少女言わず花語らず
英雄心緒亂如絲  英雄の心緒乱れて糸の如し



一人馬に騎って雨を衝き、茅葺の家の戸を叩いた。 
蓑を借りたいと言うと、その家の娘は八重の山吹の花の一枝を差し出した。
娘は何も言わない、花も語らない。
英雄の道灌はその意味が分からず、心が千々に乱れて、ほどけぬ糸のようだった。


  初夏即時    王安石

石梁茅屋有灣碕  石梁茅屋湾碕有り
流水濺濺度兩陂  流水濺々として両陂に度る
晴日暖風生麥氣  晴日暖風麦気を生じ
綠陰幽草勝花時  緑陰幽草花時に勝る



石の橋、茅葺の家、ぐるっと曲がった岸辺もある。 
流れる水はサラサラと両側の堤の間を渡ってゆく。
初夏のよく晴れた日、暖かな風が吹きわたると、麦の香りがたちこめる。
こんもり茂った緑の木陰にひっそりと草が茂り、花の咲くときよりも趣きがある。

 
  帰 省      狄仁傑

幾度天涯望白雲  幾度か天涯白雲を望む
今朝歸省見雙親  今朝帰省双親に見ゆ
春秋雖富朱顔在  春秋富むと雖ども朱顔在り
歳月無憑白髪新  歳月憑む無く白髪新たなり
美味調羹呈玉筍  美味羹を調して玉筍を呈し
佳肴入饌鱠氷鱗  佳肴饌に入って氷鱗を鱠にす
人生百行無如孝  人生百行孝に如くは無し
此志拳拳慕古人  此の志拳々として古人を慕う



何度空の果ての雲を望んで両親を思ったことか。
今朝幸いに故郷に帰り、両親にお目にかかることができた。
両親は年をとってはいるが血色はよくお元気である。
だが歳月には逆らえず、頭に白いものが見えるようになっていた。
とにかくおいしい吸い物を調理し、呉の孟宗のように好物のタケノコを差し上げ、
また晋の王祥の故事にならい、寒中の鯉をなますにしたご馳走をそなえよう。
人が行うべき行いにはいろいろあるが、孝に勝るものはない。
自分も昔の孝子を恋い慕って孝養を尽くしたいものだ。