和歌・箱根路を 源実朝
箱根路を わが越えくれば 伊豆の海や
沖の小島に 波の寄る見ゆ
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箱根路を越えてくると、急に広々とした伊豆の海が眼下に開け、
沖の小島に波が打ち寄せているのが見える。
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太田道灌蓑を借るの図に題す 作者不詳
孤鞍衝雨叩茅茨 孤鞍雨を衝いて茅茨を叩く
少女爲遺花一枝 少女為に遺る花一枝
少女不言花不語 少女言わず花語らず
英雄心緒亂如絲 英雄の心緒乱れて糸の如し
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一人馬に騎って雨を衝き、茅葺の家の戸を叩いた。
蓑を借りたいと言うと、その家の娘は八重の山吹の花の一枝を差し出した。
娘は何も言わない、花も語らない。
英雄の道灌はその意味が分からず、心が千々に乱れて、ほどけぬ糸のようだった。
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初夏即時 王安石
石梁茅屋有灣碕 石梁茅屋湾碕有り
流水濺濺度兩陂 流水濺々として両陂に度る
晴日暖風生麥氣 晴日暖風麦気を生じ
綠陰幽草勝花時 緑陰幽草花時に勝る
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石の橋、茅葺の家、ぐるっと曲がった岸辺もある。
流れる水はサラサラと両側の堤の間を渡ってゆく。
初夏のよく晴れた日、暖かな風が吹きわたると、麦の香りがたちこめる。
こんもり茂った緑の木陰にひっそりと草が茂り、花の咲くときよりも趣きがある。
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帰 省 狄仁傑
幾度天涯望白雲 幾度か天涯白雲を望む
今朝歸省見雙親 今朝帰省双親に見ゆ
春秋雖富朱顔在 春秋富むと雖ども朱顔在り
歳月無憑白髪新 歳月憑む無く白髪新たなり
美味調羹呈玉筍 美味羹を調して玉筍を呈し
佳肴入饌鱠氷鱗 佳肴饌に入って氷鱗を鱠にす
人生百行無如孝 人生百行孝に如くは無し
此志拳拳慕古人 此の志拳々として古人を慕う
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何度空の果ての雲を望んで両親を思ったことか。
今朝幸いに故郷に帰り、両親にお目にかかることができた。
両親は年をとってはいるが血色はよくお元気である。
だが歳月には逆らえず、頭に白いものが見えるようになっていた。
とにかくおいしい吸い物を調理し、呉の孟宗のように好物のタケノコを差し上げ、
また晋の王祥の故事にならい、寒中の鯉をなますにしたご馳走をそなえよう。
人が行うべき行いにはいろいろあるが、孝に勝るものはない。
自分も昔の孝子を恋い慕って孝養を尽くしたいものだ。
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