漢詩添削の実践
 
    特別講習  良い詩と報告説明の詩の違いについて 
                                            
                                          鷲野正明
                                                    
                                           R8年4月25日

良い詩とは何か?報告、説明になりがちな我々の詩と、良い詩の違いは何なのか?
鷲野先生による、講演がおこなわれました。
漢詩を作る者にとって、いつも悩むのが、「これは説明の詩です」と言われることです。
平仄などの決まりがきちんとできていても、「面白くありませんねエ。これは、詩と言えますか?」と聞かれ、
シュンとなってしまうことが度々。
さて、どうしたものか、悩む皆さんに、鷲野先生は、気づきの手を差し伸べてくださいました。
さて、よく読んで、少しでも良い詩が作れるよう、研究してみてください。

 一、報告説明の例

【初心者】 

  訪埃及(エジプト)見金字塔(ピラミッド)  
              埃及を訪ねて金字塔を見る
遙從日本坐飛機  遥かに日本より飛機に坐し
埃及忽來眺夕暉  埃及に忽ち来りて夕暉を眺む
金字塔高星一照  金字塔は高く 星一つ照り
佇看眉月暫忘歸  佇んで眉月を看て 暫く帰るを忘る


初心者としては、良くできた詩である。
初心者はまず初めに訪ねる行程を書くだろう

問題はどこか?


これが、説明、報告なのである。

ものたりないなあ

何が物足りないのか?

具体的に金字塔がどうか、ピラミッドがどの様な様子なのか何も出ていない。ただ、ピラミッドを眺めましたといっているだけ。

この詩が、説明の詩だとわかることで、作詩がレベルアップするよ。
上達するには、先生に教えてもらうのではなく、自分で気づかなくてはならない

最初は、これは何かおかしい、物足りないと解ることが、上達の秘訣です

 【中級者】 

 埃及見三角陵(ピラミッド)  埃及に三角陵を見る  
遠發扶桑來坐鵬  遠く扶桑を発し 来りて鵬に坐す
大河漾漾客船乘  大河漾漾 客船に乗る
快哉倏叫青空下  快哉倏ち叫ぶ 青空の下
悠見摩天三角陵  悠かに見る 天を摩す三角陵
 
中級になると、言葉を覚えてくる。何とか自分の思いを伝えたいと考えるだろう。

三角陵とは、塩谷節山が詠っているので、ピラミッドの事だとわかる。初級者の書いた金字塔はちょっと意味が違うことに中級になると気づくか?

初級の詩に比べると、随分と詩的になっている
日本→扶桑 飛機→坐鵬 

問題点
 
題名でエジプトでピラミッドを見たとあるので、一句目、2句目の描写は不要ではないか。

快哉→うれしくてたまらないの表現→詩としてはどうかな?
叫ぶとはストレートに言わないほうが良い。
「快哉」を叫んだ、は報告である。

ピラミッドはどうなのか、もっと細かく言うべき
もっと言うべきことがあると思う。

この詩も報告説明
行って見ることができてよかったですね、と言うしかない。なるほど、と思わせる何かがなくては!


報告説明をなくすにはどうするか


よく見て、観察することが大事。

【例】

吟行会であちらこちらに行きますが、どこどこに行きました。夕方の景色がきれいでしたよ、と、説明になってしまう詩が多い。
踏み込んだ何かが出てこないと、詩は面白くない。
しかし、よく観察したら、他の人と違う何かが見えてくる。

先生の詩

 
吟行会で、行きには白鷺が川辺にいたが、帰る時には木にとまっているのを見つけた。皆さんは見つけられましたか?
そこで作ったのが、次の詩。

 運河堤上散策   運河堤上散策    
夕陽欲沒片雲姸 夕陽没せんと欲して片雲妍なり
黃葦搖搖風度邊 黄葦搖搖 風度るの辺
一樹亭亭誰結帛 一樹亭亭 誰か帛を結ぶ
兩三白鷺住枝眠 両三の白鷺 枝に住(とどま)りて眠る

緑の葉の間に、白いハンカチが結ばれているのが見えた。次第に近づいて、よく見ると、これは白鷺がとまって眠ろうとしているところでした。
風景の中に、おや!というものを見つけて詠う。その発見が大切なのです。
3句目が無ければ、説明になってしまう。3句目がみそ。

 
 二、良い詩の例

 埃及古迹       埃及古迹    中井桜洲
我來弔古立斜曛  我来って古を弔い 斜曛に立つ
沙沒荒陵路不分  沙は荒陵を没して 路分かたず
唯有巍然三角塚  唯だ巍然として三角の塚有り
塔尖高在半天雲  塔尖は高く半天の雲に在り

 

初心者中級者と同じように詠っていると思うが、しかし違うのです。

承句、路が分からないほど砂が積り、あたりは荒れている、と具体的。そのなかで、ピラミッドが高く聳え、その先端は雲の中にある、と。

明治の初めのころのピラミッドの写真が残っていて、見るとまさにこの通りの景色で、ピラミッドを背に日本の侍が立っている。

  
 埃及懷古       埃及懐古      塩谷節山
三角陵荒歳月悠  三角陵は荒れて 歳月悠かなり
怪神像古沒砂丘  怪神像は古りて 砂丘に没す
帝魂不返繁華盡  帝魂返らず 繁華尽く
唯有大江依舊流  唯だ大江の旧に依りて流るる有り
       ※怪神像:スフィンクス

 

歴史をよく知っているから、この詩が作れる。

生まれ変わりが信じられ、ミイラをピラミッドに埋葬してきたが、帝の魂はついに帰ってこなかった。
ただナイル川だけが、昔と同じ陽にように流れている。
人の世の無常がうたわれる

転句に工夫を凝らしている
歴史を知らないと、転句は生まれない。

 
三、海外の風物を詠う詩


シベリア鉄道


 西伯利車中作
    西伯利車中の作    重野成斎
無邊豐草飽羊牛  無辺の豊草 羊牛飽く
日沒平原餘景脩  日没して 平原 余景脩(なが)し
説是蘇卿牧羝處  説く是れ 蘇卿 羝を牧する処
雁聲獨帶漢時秋  雁声独り帯ぶ 漢時の秋

  
大意

見渡す限りの平原 ヒツジや牛はまるまると肥えている
陽が沈みゆくと、平原は夕陽が斜めに長く照らし、夕暮れ時がいつまでも続く。
蘇武がオスの羊を飼っていたところで、オスの羊が子羊を生み、乳を出したら故国に帰らせてやる、という伝説のある地。
蘇武は雁の脚に帛の手紙を結び、故国に自分の無事を知らせていて、やがて国に帰ることができた。
今、シベリア鉄道に乗って東に向かっていると、漢の時代と同じように、雁が寂しげに飛んでゆく。

蘇武の話を知らなければ、この詩は書けない

  
ナイアガラの滝


 那耶哥羅観瀑詩   那耶哥羅観瀑の詩   成島柳北
客夢驚醒枕上雷  客夢驚き醒む 枕上の雷
起攀老樹陟崔嵬  起って老樹を攀じて崔嵬を陟る
夜深一望乾坤白  夜深 一望 乾坤白し
萬丈珠簾捲月  万丈の珠簾 月を捲いて来る

 
大意
旅の夜、夢からはっと目が覚めると、雷の音が聞こえてくる。
起き上がって、樹にすがりながら、険しい山を登っていく。
真夜中なのに、どうしたことだろう、天も地も真白だ。
長い瀧が、まるで真珠を連ねたように、キラキラと輝きながら落ちている。

「月を捲く」の表現が素晴らしい。滝の飛沫のひと粒ひと粒が月の光を巻き込むように輝いている様子が伝わります。

 
サイゴン

 
 塞昆          塞昆         成島柳北

夜熱侵人夢易醒  夜熱人を侵して 夢醒め易く
白沙靑草滿前汀  白沙青草 前汀に満つ
故園應是霜降節  故園 応に是れ霜降の節なるべきに
驚看蠻螢大似星  驚き看る 蛮螢 大なること星に似たるを

西洋のものを、明治の人が苦労して作った。この時代の人が作った言葉は使ってもよいだろう。

大意

夜になっても、まだ蒸し暑く、寝てもすぐに目覚めてしまう。
眠い目で見ると、白い砂、青い草が前の水際に繁っている
こんな暑中なのに故郷では霜が降りる時節だ。
南の地方にいる蛍は、星のように大きくて輝いている。

一句目、2句目の情景が、目に見えるようにわかる。
しかし、日本では、霜降の時節、と。
蛍が星のように大きく輝く、も、異国情緒があります。

良い詩を作る手始め
 
一番作りやすいのは、1句目、2句目で、風景を描写する。風景は具体的に。
読者の目にもその風景が見えるように。

2句目の下3字を丁寧に。

3句目は視線を変え、機転を利かせて詠う。
3句目を踏まえながら、4句目で全体をまとめる。

まとめるときには、余韻が漂う風景描写を意識すると良いでしょう。自ずからそこに自分の思いが乗ります。
自分の思いを乗せるように風景を詠う、ということです。


いい詩をたくさん読んみ、歴史や漢学の素養を積むことが大切です。
自分で作った詩を訓読できないようでは、困りますよね。

皆さん、頑張ってください。

漢詩添削の実践    第4回 
 
 白雲秋莊
遠來山郭旅莊前 遠く来る山郭 旅荘の前
四顧經霜紅葉鮮 四顧すれば霜を経て紅葉鮮やかなり
晴宇征鴻成列 晴宇に征鴻 列を成して上る
迢迢何處白雲連 迢迢と何処へか 白雲連なる
 

秋の晴れた日、はるばる遠くから山の旅館にやってきた。
見渡せば全山紅葉。
見上げれば渡り鳥が列を作って飛んで行く。
また白雲がどこかへと連なっている、と。
後半は何を言いたいのかわからない。転句の「征鴻」と「白雲」をリンクさせれば素材を活かすことができそうだ。
「征鴻」は雁の類で、雁は手紙を運ぶ鳥として詩によく詠われる
「白雲」は隠者のイメージ。これを使わない手はない。そこで後半を次のようにする

 遠來山郭旅莊前 遠く来る山郭 旅荘の前
四顧經霜紅葉鮮 四顧すれば霜を経て紅葉鮮やかなり
晴宇雁群成列度 晴宇 雁群 列を成して度り
帛書接得白雲連 帛書接し得て 白雲連なる
雁の白雲を横切る様子が、ちょうど帛書(手紙)を受け取っているかのよう、と。
こうした詠い方を模索すると、作詩はもっと楽しくなる。

 
 
 花徑聽鳥

雨霽野中花徑 雨霽れ野中の花径鮮やかなり
涼風嫋嫋郁氛旋 涼風 嫋嫋 郁氛旋る
噍噍鳥語何禽也 噍噍たる鳥語 何の禽なる
看得今年雛鷇連 看得たり 今年も雛鷇連なるを
 野の小径を歩いていていると鳥の鳴き声が聞こえ、何の鳥かと思っていると雛が連なって歩いていた、という。
結句で「今年も」というのは作者の思いなのであるが、詩からは「も」は読み取れない。
もし去年も見たなら「何の禽」とはならない。
「鳥」「禽」「雛」と鳥をいう語が多いのも気になる。    
前半は小径の描写で、花が咲いているようだ。「花径鮮やか」といい、涼しい風が吹き、「郁氛旋る」という。
詩全体の流れから、結句の雛を活かすため、大きな景色から詠い出して、より臨場感を出したい。
「百花」「春姸を競う」と言えば色が見え香りが漂う
原作の結句「看得たり」は説明・報告。
雨霽風涼山翠鮮 雨霽れ風涼しく山翠鮮やかなり
百花小徑競春姸 百花の小径 春妍を競う
噍噍鳥語是何處 噍噍たる鳥語 是れ何れの処ぞ
出草隨親雛鷇連 草より出で親に随い雛鷇連なる

  
 厳島遊行
淨境水涵神女宮 浄境 水は涵す 神女の宮
祠堂華表古今同 祠堂 華表 古今同じ
朱廊奇狀消魂處 朱廊奇状にして消魂の処
賽去回看別有風 賽し去って回看すれば別に風有り
厳島に行きましたという報告。
女神宮、祠堂・華表、朱廊を詠いこみ、「水は涵す」や「古今同じ」「奇狀消魂」と説明するだけで、作者の感動は特に何も伝わってこない。感動の中心が何であるか分からないので添削をしようにもできない。
まずは、過去の詩人がどのように詠ったか、用例を見るのが一番良いだろう
 【古人の作例】 

 嚴 島           淺野坤山
遙觀鼇背一蓬萊 遥かに鼇背(ごうはい)を観れば 一蓬莱
靉靉雲煙擁瑞臺 靉々たる雲煙 瑞台を擁す
月落長廊灣上靜 月落ちて長廊 湾上に静かなり
萬燈星列照波來 万灯星のごと列し 波を照らして来る

「遥かに海亀の背のような島を見ると、まるで仙人が棲む蓬莱山ようだ。
めでたい雲煙が神社を守るように盛んに立ち籠めている。
月が沈んで暗くなっていくと、神社の長い廊下が湾の上に静かに浮かび、
無数の灯篭がまるで星が連なるように輝いて波を照らし出してくる。」

作詩の要は、テーマを一つに絞ることである

静かな長い廊下に無数の灯篭がともされ、その無数の灯篭はまるで星のように輝き、波を照らしている。
長廊の灯篭と、水上に映る灯篭と、キラキラ輝いて幻想的である。
前半で神々しく神仙世界のようだと言ったことが、後半でしっかり受け止められている。

第3回
 
良い詩を作るには、言葉の選択、言葉と言葉の繋がり、句と句の緊密な構成に留意します。

対象を細かに観察し、詩の背景となる風景を具体的に描くことが大切です。
風景を画けば、色彩も香りもそこに含まれます

日々漢詩漢文に親しみ、散歩して観察眼を磨き、発想力を養いましょう。

添削を受けたら、どこが悪かったのかを吟味し、推敲のコツを掴んでください。

今回の三首はそれなりにできていますが、詩としてどうかというと、物足りません。

発想がありきたりで、言葉の選択、全体の構成が整っていません。言葉の使い方を細かに指摘してみても、発想・構成が問題ですので、今回は添削例をすぐに挙げます。よく吟味してください。

 
 江城懷古(懷勝海舟西郷南洲)
笑談相對一生奇 笑談相対す 一生の奇
無血開城天下危 無血開城 天下の危
墨守計圖非戰策 墨守計図 非戦の策
傳今偉業兩雄碑 今に伝ふ偉業 両雄の碑

 
【講評添削】
内容は、一般的な歴史書に書かれていることをそのまま言っているだけ。
各句が「四字」+「三字」で、その三字は「一生の奇」「天下の危」「非戦の策」「両雄の碑」と同じ構文を繰り返す。
歴史をどう捉えるかは作者次第だが、これでは詩にならない。
単調な表現を改め、ちょっと詩的にしてみる。


笑談相對意相知
 笑談相ひ対して 意相ひ知る
不戰欲救天下危 戦はずして天下の危を救はんと欲すと
無血開城何故就 無血開城 何故に就(な)る
是偏仁義以爲支 是れ偏に 仁義 以て支えと為さん

 
  
 雨中尋寺

咲誇階序紫陽花 咲き誇る階序の紫陽花
細雨霏霏姸玉葩 細雨霏霏として玉葩姸なり
步止飽看門戸外 歩を止め飽くまで看る 門戸の外
深幽古刹淡煙遮 深幽なる古刹 淡煙遮る 

 
【講評添削】
前半で、紫陽花の花を見ている。転句から推すと、花は門外にあるようだ。
古刹は淡煙で見えない。
で、この詩は何を言いたいのだろう。
中心となるテーマがない。構成を変えて、花に焦点を当ててみる。

 
深幽古刹淡煙遮 深幽なる古刹 淡煙遮る
小逕人群擎傘斜 小逕 人群がり 傘を擎げて斜めなり
徐進漸看千朶綠 徐ろに進んで漸く看る 千朶の緑
滿開多彩紫陽花 満開 多彩 紫陽の花

 
 
 壬寅九月五日観国際宇宙駅飛行

庭前暑去已黃昏 庭前暑去りて已に黄昏
雲散天空玉兎存 雲散じ天空 玉兎存す
忽現飛船寅丑去 忽ち現る飛船 寅丑に去る
友朋至技競逾 友朋の至技 競いて逾いよ奔る

 
【講評添削】
結句は意味不明。
宇宙船に友人の技術が活かされている、というのだろう。どこかでそれをキチンと言わないと読者に伝わらない。
結句の「奔」は、韻字の関係で、そのまま使う。「流星」は宇宙船である。

 
友朋欲探太初元 友朋 探らんと欲す 太初の元(はじめ)
技術研鑽船上存 技術研鑽して船上に存す
雲散天空銀兎到 雲散じ天空に銀兎到れば
流星忽現丑寅奔 流星忽ち現はれ丑寅に奔る

 
 第1回
 テーマをしっかりと捉え構成をきめよう 
  
 送 別         送 別

寒柯葉落成堆  寒柯葉は落ち日に堆を成し
霜殘里居松籟哀  霜残る里居 松籟哀し
君去長途斜照裏  君去る長途 斜照の裏
積愁離恨一時來  積愁 離恨 一時に来たり

 

【講評添削】
詩にテーマがないと良い詩にはならない。
結句に作者の言いたいことが明らかになるよう、全体を構成し、結句に余韻が残るようにしないといけない。
この作品は「君が去って行って別れの悲しみが一時に来た」と言うが、全体がありきたりの言い方で、
深刻さが伝わってこないただの説明・報告になっている。
「ほんのちょっとだけ逢えた喜びと、怱怱の別れ」という設定であれば、去ったあとの「悲しさがいっぺんに襲ってきた」ことが読者に伝わるのではないか。
この流れにすると、家や霜、松籟は、本当に必要なのか、テーマに沿って、必要な言葉を選択する必要がある。

 

紛紛落葉忽成堆
 紛紛たる落葉 忽ち堆を成し

相會暫時倶擧杯  相ひ会ふこと暫時 倶に杯を挙ぐ
君去怱怱斜照裏  君去りて怱怱 斜照の裏
歡情離恨一齊來  歓情 離恨 一斉に来たる

 
 説明にならないようにしよう 
  
 小庭蠟梅       小庭蝋梅

朔風漸止雪晴晨  朔風漸く止み 雪晴るるの晨
冠朶玉英白銀  冠朶の玉英 正に白銀
日上忽融黄蕊現  日上れば忽ち融けて黄蕊現る
梅花馥郁是魁  梅花 馥郁 是魁の春  


【講評添削】
承句の「英」が孤平。
転句、結句、説明。
視覚だけでなく、嗅覚や聴覚や触覚などに訴えるように詠うと、情景はより具体的になる。 


朔風漸止雪晴晨
 朔風漸く止み 雪晴るるの晨
朶朶玉英堆白銀  朶朶玉英 白銀堆(うずたか)し
日上黄花輝似燭  日上りて 黄花 輝きて燭に似たり
淸香馥郁獨迎春  清香馥郁 独り春を迎ふ

 
   
 結句に到るまでの流れを考えて  
  
 黑部堰堤
      黒部堰堤

連山日照紫煙 連山 日は照らして 紫煙横たはる
俊谷風傳瀑布聲  俊谷 風は伝ふ 瀑布の声
壁立堰堤高萬仞  壁立せる堰堤 高さ万仞
湖添水色正盈盈  湖は水色を添へて正に盈盈たり 


【講評添削】
 一句一句整っている。前半の二句は良い。
後半、これでも良いが、ダムが完成して六〇年たつので、時間的・空間的な大きさを言ってみてはどうか。

 

連山日照紫煙生
 連山 日は照らして 紫煙生ず
俊谷風傳瀑布聲  俊谷 風は伝ふ 瀑布の声
月轉星移經幾歳  月転じ星移りて経ること幾歳
乾坤常泛水盈盈  乾坤常に泛んで 水盈盈 

 
 第2回  

 「漢詩」と言うと、身構えてあれもこれも言いたくなりますが、詩は報告や説明ではありませんから、あれこれ言う必要はありません。テーマに沿って、テーマを詠うために必要な詩語だけを用い、詩を読んだあとに余韻が残るようにするのが肝心です。

今回の三首は、みな言葉を平仄に合わせて配置した日常詠で、いろいろ言い過ぎて詩としての面白さに欠けています。言葉がすべて活きて連絡し、起承転結の構成がはっきりとし、結句に余情があるように心がけてください。

 
 
 春日閑行       
輯輯艶陽天  好風輯輯 艶陽の天
駘蕩遙聴鶯語姸  駘蕩 遙かに聴く 鴬語姸なるを
参道棣棠陰眩燿  参道の棣棠 陰(ひそ)かに眩燿
清香浄我絶塵縁  清香 我を浄らかにして塵縁を絶つ

 

 【講評添削】

承句の「駘蕩」は、のびのびとした、のどかな様子。「駘蕩」の意味は分かる、が、それだけで詩は作れません。
他のどのような詩語と結びつくのか、用例を知っておく必要があります。
原作の「駘蕩」は結びつく言葉 (風)が離れていて、孤立しています。
転句の「参道」は和語。
「陰」は日が当たらない所を言う語で、「陰眩燿」とはどういうことか分かりまん。
結句は報告・説明。余韻が残るように。以下のようにするとスッキリします。
結句の、塵縁を絶っているのは棣棠の花で、そのように見ている作者がいます。

 
 
 春日閑行
春風駘蕩艶陽天  春風駘蕩 艶陽の天
村路曳筇鶯語姸  村路 筇を曳けば鴬語姸なり
馥郁淸香何處起  馥郁たる清香何処くより起こる
棣棠照眼絶塵縁  棠眼を照らして塵縁を絶つ

 
 

  暑日讀書
溽暑炎炎蝉語喧  溽暑炎炎として蝉語喧し
開書頻已陽昏  書を開きて頻りに読めば已に陽昏し
倚窓遙遠壯遊夢  窓に倚りて遥か遠く壮遊を夢む
方作飛蓬翔大原  方に飛蓬と作りて 大原を翔けん

 
 【講評添削】

経験や体験を述べるだけでは詩にはなりません。詩語が繋がり、起承転結があって、余韻をもって終わるように。
ところで、題名と承句に言う「書」とは、どんな書ですか。作者は何を読んでいたのですか?
具体性がありません。だから単なる報告になるのです。
転句の「夢」は、眠ってみる夢を言います。「希望」「願望」ではありません。
結句の「飛蓬」は根無し草で、孤独な旅人をイメージさせる語。孤独な旅人としての「壮遊」なのですか?
添削のポイントは、何を読んでいたかを明らかにすること。
李白の「月下独酌」を読んでいて、眠ってしまい、壮大な夢をみた、という設定にしたら面白いでしょう。
結句は夢の中だから、何でも詠えます。
起句の蝉の声は、夢の中では鳥の羽ばたきのようなイメージになるかもしれません

 
 
 暑日讀書
溽暑炎炎蟬語喧
 溽暑炎炎として蝉語喧し
李詩獨讀已黃昏
 李詩独り読みて已に黃昏
不知倚几夢天漢
 知らず几に倚りて天漢を夢む
伴月擧杯翔水源  月
を伴い杯を挙げ水源を翔ける

 
 

 墨堤櫻花
倚舷
仰白雲堆  
舷に倚り瞻仰すれば白雲堆く
談讌知音
花下杯  
知音と談讌 花下の杯
醉舞高
行暮裏  
酔うて舞い高吟すれば行暮の裏
轉頭朧月漾
江來  
頭を転らせば朧月 江に漾うて来る

 

【講評添削】


いろいろ言っていますが、肝心なことは何も言っていません。
「知音」は、自分を本当に理解してくれる真の友人。
わざわざ「知音」親友と言っているのに、その親友は詩の後半にはまったく出てきません。
ただ「知音」と宴を開いて花の下で杯を酌み交わした、と前半で報告するだけです。
言葉がすべて活きてつながるように。言葉を整理し、起承転結を活用するようにしてください。

 
 
 墨堤櫻花
倚舷閑仰白雲堆  
舷に倚り閑に仰げば白雲堆し
朋友共傾花下杯  
友 共に傾く 花下の杯
君舞我吟風到處  
君は舞へ 我は吟ぜん 風到る処(とき)
月明欲上照江來  
月明上らんと欲して江を照らして来らん