新企画 漢詩添削の実践 | |
今号から、日曜コース・木曜コース等での添削例を掲載します。 作詩に役立ててください。。 |
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テーマをしっかりと捉え構成をきめよう | |
送 別 送 別 寒柯葉落日成堆 寒柯葉は落ち日に堆を成し 霜殘里居松籟哀 霜残る里居 松籟哀し 君去長途斜照裏 君去る長途 斜照の裏 積愁離恨一時來 積愁 離恨 一時に来たり |
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詩にテーマがないと良い詩にはならない。 結句に作者の言いたいことが明らかになるよう、全体を構成し、結句に余韻が残るようにしないといけない。 この作品は「君が去って行って別れの悲しみが一時に来た」と言うが、全体がありきたりの言い方で、 深刻さが伝わってこないただの説明・報告になっている。 「ほんのちょっとだけ逢えた喜びと、怱怱の別れ」という設定であれば、去ったあとの「悲しさがいっぺんに襲ってきた」ことが読者に伝わるのではないか。 この流れにすると、家や霜、松籟は、本当に必要なのか、テーマに沿って、必要な言葉を選択する必要がある。 |
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紛紛落葉忽成堆 紛紛たる落葉 忽ち堆を成し 相會暫時倶擧杯 相ひ会ふこと暫時 倶に杯を挙ぐ 君去怱怱斜照裏 君去りて怱怱 斜照の裏 歡情離恨一齊來 歓情 離恨 一斉に来たる |
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説明にならないようにしよう | |
小庭蠟梅 小庭蝋梅 朔風漸止雪晴晨 朔風漸く止み 雪晴るるの晨 冠朶玉英正白銀 冠朶の玉英 正に白銀 日上忽融黄蕊現 日上れば忽ち融けて黄蕊現る 梅花馥郁是魁春 梅花 馥郁 是魁の春 |
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承句の「英」が孤平。 転句、結句、説明。 視覚だけでなく、嗅覚や聴覚や触覚などに訴えるように詠うと、情景はより具体的になる。 |
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朔風漸止雪晴晨 朔風漸く止み 雪晴るるの晨 朶朶玉英堆白銀 朶朶玉英 白銀堆(うずたか)し 日上黄花輝似燭 日上りて 黄花 輝きて燭に似たり 淸香馥郁獨迎春 清香馥郁 独り春を迎ふ |
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結句に到るまでの流れを考えて | |
黑部堰堤 黒部堰堤 連山日照紫煙横 連山 日は照らして 紫煙横たはる 俊谷風傳瀑布聲 俊谷 風は伝ふ 瀑布の声 壁立堰堤高萬仞 壁立せる堰堤 高さ万仞 湖添水色正盈盈 湖は水色を添へて正に盈盈たり |
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一句一句整っている。前半の二句は良い。 後半、これでも良いが、ダムが完成して六〇年たつので、時間的・空間的な大きさを言ってみてはどうか。 |
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連山日照紫煙生 連山 日は照らして 紫煙生ず 俊谷風傳瀑布聲 俊谷 風は伝ふ 瀑布の声 月轉星移經幾歳 月転じ星移りて経ること幾歳 乾坤常泛水盈盈 乾坤常に泛んで 水盈盈 |
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第2回 「漢詩」と言うと、身構えてあれもこれも言いたくなりますが、詩は報告や説明ではありませんから、あれこれ言う必要はありません。テーマに沿って、テーマを詠うために必要な詩語だけを用い、詩を読んだあとに余韻が残るようにするのが肝心です。 今回の三首は、みな言葉を平仄に合わせて配置した日常詠で、いろいろ言い過ぎて詩としての面白さに欠けています。言葉がすべて活きて連絡し、起承転結の構成がはっきりとし、結句に余情があるように心がけてください。 |
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春日閑行 好風輯輯艶陽天 好風輯輯 艶陽の天 駘蕩遙聴鶯語姸 駘蕩 遙かに聴く 鴬語姸なるを 参道棣棠陰眩燿 参道の棣棠 陰(ひそ)かに眩燿 清香浄我絶塵縁 清香 我を浄らかにして塵縁を絶つ |
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【講評添削】 承句の「駘蕩」は、のびのびとした、のどかな様子。「駘蕩」の意味は分かる、が、それだけで詩は作れません。他のどのような詩語と結びつくのか、用例を知っておく必要があります。原作の「駘蕩」は結びつく言葉 (風)が離れていて、孤立しています。 転句の「参道」は和語。 「陰」は日が当たらない所を言う語で、「陰眩燿」とはどういうことか分かりまん。 結句は報告・説明。余韻が残るように。以下のようにするとスッキリします。結句の、塵縁を絶っているのは棣棠の花で、そのように見ている作者がいます。 |
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春日閑行 春風駘蕩艶陽天 春風駘蕩 艶陽の天 村路曳筇鶯語姸 村路 筇を曳けば鴬語姸なり 馥郁淸香何處起 馥郁たる清香何処くより起こる 棣棠照眼絶塵縁 棠眼を照らして塵縁を絶つ |
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暑日讀書 溽暑炎炎蝉語喧 溽暑炎炎として蝉語喧し 開書頻讀已陽昏 書を開きて頻りに読めば已に陽昏し 倚窓遙遠壯遊夢 窓に倚りて遥か遠く壮遊を夢む 方作飛蓬翔大原 方に飛蓬と作りて 大原を翔けん |
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【講評添削】 経験や体験を述べるだけでは詩にはなりません。詩語が繋がり、起承転結があって、余韻をもって終わるように。 ところで、題名と承句に言う「書」とは、どんな書ですか。作者は何を読んでいたのですか? 具体性がありません。だから単なる報告になるのです。 転句の「夢」は、眠ってみる夢を言います。「希望」「願望」ではありません。 結句の「飛蓬」は根無し草で、孤独な旅人をイメージさせる語。孤独な旅人としての「壮遊」なのですか? 添削のポイントは、何を読んでいたかを明らかにすること。李白の「月下独酌」を読んでいて、眠ってしまい、壮大な夢をみた、という設定にしたら面白いでしょう。 結句は夢の中だから、何でも詠えます。起句の蝉の声は、夢の中では鳥の羽ばたきのようなイメージになるかもしれません |
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暑日讀書 溽暑炎炎蟬語喧 溽暑炎炎として蝉語喧し 李詩獨讀已黃昏 李詩独り読みて已に黃昏 不知倚几夢天漢 知らず几に倚りて天漢を夢む 伴月擧杯翔水源 月を伴い杯を挙げ水源を翔ける |
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墨堤櫻花 倚舷瞻仰白雲堆 舷に倚り瞻仰すれば白雲堆く 談讌知音花下杯 知音と談讌 花下の杯 醉舞高吟行暮裏 酔うて舞い高吟すれば行暮の裏 轉頭朧月漾江來 頭を転らせば朧月 江に漾うて来る |
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【講評添削】 いろいろ言っていますが、肝心なことは何も言っていません。 「知音」は、自分を本当に理解してくれる真の友人。わざわざ「知音」親友と言っているのに、その親友は詩の後半にはまったく出てきません。ただ「知音」と宴を開いて花の下で杯を酌み交わした、と前半で報告するだけです。 言葉がすべて活きてつながるように。言葉を整理し、起承転結を活用するようにしてください。 |
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墨堤櫻花 倚舷閑仰白雲堆 舷に倚り閑に仰げば白雲堆し 朋友共傾花下杯 友 共に傾く 花下の杯 君舞我吟風到處 君は舞へ 我は吟ぜん 風到る処(とき) 月明欲上照江來 月明上らんと欲して江を照らして来らん |
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