新企画 漢詩添削の実践
 
第3回
 
良い詩を作るには、言葉の選択、言葉と言葉の繋がり、句と句の緊密な構成に留意します。

対象を細かに観察し、詩の背景となる風景を具体的に描くことが大切です。
風景を画けば、色彩も香りもそこに含まれます

日々漢詩漢文に親しみ、散歩して観察眼を磨き、発想力を養いましょう。

添削を受けたら、どこが悪かったのかを吟味し、推敲のコツを掴んでください。

今回の三首はそれなりにできていますが、詩としてどうかというと、物足りません。

発想がありきたりで、言葉の選択、全体の構成が整っていません。言葉の使い方を細かに指摘してみても、発想・構成が問題ですので、今回は添削例をすぐに挙げます。よく吟味してください。

 
 江城懷古(懷勝海舟西郷南洲)
笑談相對一生奇 笑談相対す 一生の奇
無血開城天下危 無血開城 天下の危
墨守計圖非戰策 墨守計図 非戦の策
傳今偉業兩雄碑 今に伝ふ偉業 両雄の碑

 
【講評添削】
内容は、一般的な歴史書に書かれていることをそのまま言っているだけ。
各句が「四字」+「三字」で、その三字は「一生の奇」「天下の危」「非戦の策」「両雄の碑」と同じ構文を繰り返す。
歴史をどう捉えるかは作者次第だが、これでは詩にならない。
単調な表現を改め、ちょっと詩的にしてみる。


笑談相對意相知
 笑談相ひ対して 意相ひ知る
不戰欲救天下危 戦はずして天下の危を救はんと欲すと
無血開城何故就 無血開城 何故に就(な)る
是偏仁義以爲支 是れ偏に 仁義 以て支えと為さん

 
  
 雨中尋寺

咲誇階序紫陽花 咲き誇る階序の紫陽花
細雨霏霏姸玉葩 細雨霏霏として玉葩姸なり
步止飽看門戸外 歩を止め飽くまで看る 門戸の外
深幽古刹淡煙遮 深幽なる古刹 淡煙遮る 

 
【講評添削】
前半で、紫陽花の花を見ている。転句から推すと、花は門外にあるようだ。
古刹は淡煙で見えない。
で、この詩は何を言いたいのだろう。
中心となるテーマがない。構成を変えて、花に焦点を当ててみる。

 
深幽古刹淡煙遮 深幽なる古刹 淡煙遮る
小逕人群擎傘斜 小逕 人群がり 傘を擎げて斜めなり
徐進漸看千朶綠 徐ろに進んで漸く看る 千朶の緑
滿開多彩紫陽花 満開 多彩 紫陽の花

 
 
 壬寅九月五日観国際宇宙駅飛行

庭前暑去已黃昏 庭前暑去りて已に黄昏
雲散天空玉兎存 雲散じ天空 玉兎存す
忽現飛船寅丑去 忽ち現る飛船 寅丑に去る
友朋至技競逾 友朋の至技 競いて逾いよ奔る

 
【講評添削】
結句は意味不明。
宇宙船に友人の技術が活かされている、というのだろう。どこかでそれをキチンと言わないと読者に伝わらない。
結句の「奔」は、韻字の関係で、そのまま使う。「流星」は宇宙船である。

 
友朋欲探太初元 友朋 探らんと欲す 太初の元(はじめ)
技術研鑽船上存 技術研鑽して船上に存す
雲散天空銀兎到 雲散じ天空に銀兎到れば
流星忽現丑寅奔 流星忽ち現はれ丑寅に奔る

 
 第1回
 テーマをしっかりと捉え構成をきめよう 
  
 送 別         送 別

寒柯葉落成堆  寒柯葉は落ち日に堆を成し
霜殘里居松籟哀  霜残る里居 松籟哀し
君去長途斜照裏  君去る長途 斜照の裏
積愁離恨一時來  積愁 離恨 一時に来たり

 

【講評添削】
詩にテーマがないと良い詩にはならない。
結句に作者の言いたいことが明らかになるよう、全体を構成し、結句に余韻が残るようにしないといけない。
この作品は「君が去って行って別れの悲しみが一時に来た」と言うが、全体がありきたりの言い方で、
深刻さが伝わってこないただの説明・報告になっている。
「ほんのちょっとだけ逢えた喜びと、怱怱の別れ」という設定であれば、去ったあとの「悲しさがいっぺんに襲ってきた」ことが読者に伝わるのではないか。
この流れにすると、家や霜、松籟は、本当に必要なのか、テーマに沿って、必要な言葉を選択する必要がある。

 

紛紛落葉忽成堆
 紛紛たる落葉 忽ち堆を成し

相會暫時倶擧杯  相ひ会ふこと暫時 倶に杯を挙ぐ
君去怱怱斜照裏  君去りて怱怱 斜照の裏
歡情離恨一齊來  歓情 離恨 一斉に来たる

 
 説明にならないようにしよう 
  
 小庭蠟梅       小庭蝋梅

朔風漸止雪晴晨  朔風漸く止み 雪晴るるの晨
冠朶玉英白銀  冠朶の玉英 正に白銀
日上忽融黄蕊現  日上れば忽ち融けて黄蕊現る
梅花馥郁是魁  梅花 馥郁 是魁の春  


【講評添削】
承句の「英」が孤平。
転句、結句、説明。
視覚だけでなく、嗅覚や聴覚や触覚などに訴えるように詠うと、情景はより具体的になる。 


朔風漸止雪晴晨
 朔風漸く止み 雪晴るるの晨
朶朶玉英堆白銀  朶朶玉英 白銀堆(うずたか)し
日上黄花輝似燭  日上りて 黄花 輝きて燭に似たり
淸香馥郁獨迎春  清香馥郁 独り春を迎ふ

 
   
 結句に到るまでの流れを考えて  
  
 黑部堰堤
      黒部堰堤

連山日照紫煙 連山 日は照らして 紫煙横たはる
俊谷風傳瀑布聲  俊谷 風は伝ふ 瀑布の声
壁立堰堤高萬仞  壁立せる堰堤 高さ万仞
湖添水色正盈盈  湖は水色を添へて正に盈盈たり 


【講評添削】
 一句一句整っている。前半の二句は良い。
後半、これでも良いが、ダムが完成して六〇年たつので、時間的・空間的な大きさを言ってみてはどうか。

 

連山日照紫煙生
 連山 日は照らして 紫煙生ず
俊谷風傳瀑布聲  俊谷 風は伝ふ 瀑布の声
月轉星移經幾歳  月転じ星移りて経ること幾歳
乾坤常泛水盈盈  乾坤常に泛んで 水盈盈 

 
 第2回  

 「漢詩」と言うと、身構えてあれもこれも言いたくなりますが、詩は報告や説明ではありませんから、あれこれ言う必要はありません。テーマに沿って、テーマを詠うために必要な詩語だけを用い、詩を読んだあとに余韻が残るようにするのが肝心です。

今回の三首は、みな言葉を平仄に合わせて配置した日常詠で、いろいろ言い過ぎて詩としての面白さに欠けています。言葉がすべて活きて連絡し、起承転結の構成がはっきりとし、結句に余情があるように心がけてください。

 
 
 春日閑行       
輯輯艶陽天  好風輯輯 艶陽の天
駘蕩遙聴鶯語姸  駘蕩 遙かに聴く 鴬語姸なるを
参道棣棠陰眩燿  参道の棣棠 陰(ひそ)かに眩燿
清香浄我絶塵縁  清香 我を浄らかにして塵縁を絶つ

 

 【講評添削】

承句の「駘蕩」は、のびのびとした、のどかな様子。「駘蕩」の意味は分かる、が、それだけで詩は作れません。
他のどのような詩語と結びつくのか、用例を知っておく必要があります。
原作の「駘蕩」は結びつく言葉 (風)が離れていて、孤立しています。
転句の「参道」は和語。
「陰」は日が当たらない所を言う語で、「陰眩燿」とはどういうことか分かりまん。
結句は報告・説明。余韻が残るように。以下のようにするとスッキリします。
結句の、塵縁を絶っているのは棣棠の花で、そのように見ている作者がいます。

 
 
 春日閑行
春風駘蕩艶陽天  春風駘蕩 艶陽の天
村路曳筇鶯語姸  村路 筇を曳けば鴬語姸なり
馥郁淸香何處起  馥郁たる清香何処くより起こる
棣棠照眼絶塵縁  棠眼を照らして塵縁を絶つ

 
 

  暑日讀書
溽暑炎炎蝉語喧  溽暑炎炎として蝉語喧し
開書頻已陽昏  書を開きて頻りに読めば已に陽昏し
倚窓遙遠壯遊夢  窓に倚りて遥か遠く壮遊を夢む
方作飛蓬翔大原  方に飛蓬と作りて 大原を翔けん

 
 【講評添削】

経験や体験を述べるだけでは詩にはなりません。詩語が繋がり、起承転結があって、余韻をもって終わるように。
ところで、題名と承句に言う「書」とは、どんな書ですか。作者は何を読んでいたのですか?
具体性がありません。だから単なる報告になるのです。
転句の「夢」は、眠ってみる夢を言います。「希望」「願望」ではありません。
結句の「飛蓬」は根無し草で、孤独な旅人をイメージさせる語。孤独な旅人としての「壮遊」なのですか?
添削のポイントは、何を読んでいたかを明らかにすること。
李白の「月下独酌」を読んでいて、眠ってしまい、壮大な夢をみた、という設定にしたら面白いでしょう。
結句は夢の中だから、何でも詠えます。
起句の蝉の声は、夢の中では鳥の羽ばたきのようなイメージになるかもしれません

 
 
 暑日讀書
溽暑炎炎蟬語喧
 溽暑炎炎として蝉語喧し
李詩獨讀已黃昏
 李詩独り読みて已に黃昏
不知倚几夢天漢
 知らず几に倚りて天漢を夢む
伴月擧杯翔水源  月
を伴い杯を挙げ水源を翔ける

 
 

 墨堤櫻花
倚舷
仰白雲堆  
舷に倚り瞻仰すれば白雲堆く
談讌知音
花下杯  
知音と談讌 花下の杯
醉舞高
行暮裏  
酔うて舞い高吟すれば行暮の裏
轉頭朧月漾
江來  
頭を転らせば朧月 江に漾うて来る

 

【講評添削】


いろいろ言っていますが、肝心なことは何も言っていません。
「知音」は、自分を本当に理解してくれる真の友人。
わざわざ「知音」親友と言っているのに、その親友は詩の後半にはまったく出てきません。
ただ「知音」と宴を開いて花の下で杯を酌み交わした、と前半で報告するだけです。
言葉がすべて活きてつながるように。言葉を整理し、起承転結を活用するようにしてください。

 
 
 墨堤櫻花
倚舷閑仰白雲堆  
舷に倚り閑に仰げば白雲堆し
朋友共傾花下杯  
友 共に傾く 花下の杯
君舞我吟風到處  
君は舞へ 我は吟ぜん 風到る処(とき)
月明欲上照江來  
月明上らんと欲して江を照らして来らん