1日目・3日目                  蘇 州 市 内

    1日目           
 11:40 浦東空港到着
    ↓
 15:45 文廟見学
    ↓
 16:10 滄浪亭見学
    ↓
 17:20 夕食 清華酒楼
    ↓
 18:35 蘇州呉宮泛太平洋酒店泊
 
     
    
                                         芳野禎文
 海外の吟行会に今回初めて参加しました。鷲野会長、理事の皆様の用意周到なプラニングにより楽しい充実した一寸忙しい五日間の旅でした。
以下日程を思い出しながら漢詩五首を作詩してみました。
皆様色々お世話になりました。次回機会がありましたら又参加するつもりです。
三月二十二日 十二時 上海浦東空港着、ガイドはベテランの呉楊亜さん

   
 着上海浦東空港         
詩朋二十浦東臻  詩朋二十浦東に臻る
向導迎來心服頻  向導迎え来たりて心服頻りなり
天氣体調方絶好  天気体調方に絶好
切思無恙旅程巡  切に思う恙無く旅程巡るを

 
     
   
                                          加藤 武
 私はハルビン生まれで二歳までいましたが、その後はずっと中国には入ったことがなかったので、今回の旅は短期間ではありましたが、非常に感銘深いものでした。成田からわずか三時間足らずで上海に着き、迎えの車で午後三時には、昔から多くの詩人たちが詩作したという蘇州に入りました。古い建物や庭園、桜や梅、杏の花などが咲きほころび、鳥がさえずり、最適の時節でもありました。
   
 蘇州旅
                
哈爾濱猶生地鄕  哈爾浜は猶ほ生地の郷なるも
逃來日本慕情忘  逃れて日本に来たりて慕情を忘る
有緣春節蘇州旅  縁有りて春節蘇州を旅す
飛鳥伴吾千里翔  飛鳥吾を伴ひて千里を翔る

 
     
   
 訪文廟              芳野禎文
街中聖廟樹容幽  街中の聖廟樹容幽なり
師表像前春色稠  師表像前春色稠し
洙泗教場三百歳  洙泗の教場三百歳
回廊接踵好文儔  回廊踵を接す好文の儔 

 
     
                                          
                                      蹊山 薄井 隆

 蘇州に着いたのは已に三時を過ぎていたが、春の日は永くそのまま観光を始める。滄浪亭は蘇州四大名園の中で最古のもので一千年以上の歴史を持つという。周囲に巡らした運河に回廊の白壁が影を落とし、岸には青々とした柳が垂れて水郷らしい風情を醸し出しており、「いま蘇州に来ているのだ」という実感を新たにした。太湖石や杯池を配した緑樹鬱蒼たる庭園は、多くの種類の竹が植えられているのが印象的だった。
 築山の上に建つ滄浪亭には「清風明月本無價 近水遠山皆有情」の対聯が掲げられていて、小さいながらも風雅な趣がある。こんな処で月の夜に酒を酌んだらさぞかし良い詩が詠めることだろう。
 
    
 滄浪亭          

竹林閑歩葉聲頻 
竹林閑歩すれば 葉声頻りなり
相應禽聲洗俗塵 
相応じて 禽声 俗塵を洗ふ
山上小亭風颯颯 
山上の小亭 風颯々
一宵迎月欲斟醇
 
一宵月を迎え 醇を斟まんと欲す

 
     
   
 尋滄浪亭            河野幸男

晩來信歩入庭園  晩来 歩に信せ庭園に入る
幽徑回廊花氣繁  幽径 回廊 花気繁し
雙樹山茶紅艷細  双樹の山茶 紅艷細やかに
竹林相映正桃源  竹林相ひ映じて正に桃源

 
     
                                           
                                      蕗山 清水義孝

蘇州四大庭園の一つ、滄浪亭の入口を入ると、築山があり、その築山の上に滄浪亭という亭がある。この滄浪亭から園内を見渡すと、庭園自体はあまり広くはない。かつての滄浪亭は、現存している滄浪亭の6倍以上の広さを有していたといわれているが、回廊と漏窓が印象深く、漏窓に同じデザインは一つも無いという。小鳥の囀りが何とも心地良かった
   
 滄浪亭            
回廊徐歩夕陽中  回廊徐に歩す 夕陽の中
聞説漏窓全不同  聞説く漏窓 全て同じからずと
何鳥嚶嚶聲度處  何の鳥か嚶々(おうおう) 声度る処
玉蘭香氣和春風  玉蘭の香気 春風に和す

 
     
   
 滄浪亭            正軒 原 正
奇岩奇石滿芳庭 奇岩 奇石 芳庭に満ち
淸水巡盈彫鏤亭 清水巡り盈つ 彫鏤の亭
竹藪荒垣餘古色 竹藪 荒垣 古色を余し 
客情足慰四隅銘  客情慰むるに足る 四隅の銘

 
     
    
                                          鷲野直美
 海外吟行、今回は暖かく、外歩きにはとても良い日が続きました。
七年経った蘇州は街中の道幅がどこも拡張されていて、また至る所が工事中でした。地下鉄も随時開業するそうですので、旧市内に限っては移動が楽になりそうです。(上海の地下鉄のように“要ボディ・チェック”かも、ですが。)
さて今回も宿泊は「呉宮泛太平洋酒店(パンパシフィックホテル)」。ホテルの庭園がとても立派で見応えがあります。盤門公園に自由に出入りできるのですから。しかし、部屋の設備は・・・。
七年前と同じように、今年もバスタブにちょっとしたトラブルがありました。七年前はガムテープを持参していましたので対応できたのですが、今回はうっかり忘れてしまい、バスタブは結局使えませんでした。その他ポットでお湯を沸かそうとしてもコンセントが使えなかったり、朝食の時ドリンクマシンが暴走してコーヒーが出続けて止まらなかったり、といろいろありました。
 これが中国のおもしろい所ですね。台湾吟行が続いた為、大陸旅行の勘が鈍ったのでしょう。ガムテープ(しかも防水)を持ってこなかったことを激しく後悔しました。
   
 再宿呉宮泛太平洋酒店       
汚濁浮沈溢浴池  汚濁浮沈し浴池溢る
挿頭挿座不能維  挿頭(プラグ)挿座(コンセント)
          維(つな)ぐ能わず
咖啡欲飲餐廳裏  咖啡を飲まんと欲す 餐庁の裏
空佇喝弯機壞時  空しく佇む 喝弯機(ドリンク
         マシンの壊るる時
 



3日目                 
 8:30 盤門見学
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 「墨客園」にて蘇州大学との交流会
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 昼食「得月楼」
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 北寺塔見学
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 乗船
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 虎丘見学
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 夕食「老東呉食府」
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 昆曲鑑賞「非遺堂」
     
    
  盤門公園                                 溪山 薄井
 
盤門公園はホテルの裏門から自由に出入りできた。市民の憩いの場として綺麗に整備されており、六十歳以上は無料とかで朝早くから散策したり太極拳をやっている姿が見られた。桃や杏、散り残った桜などが碧柳に映じ春の気配が満ち満ちている。盤門は蘇州城の八つの城門のうち現存する唯一のもので、楼上からは朝靄にかすむ瑞光塔が遠望された。

   
 盤門公園      
碧柳垂池搖惠風  碧柳池に垂れて 恵風に搖らぎ
杏桃處處點嬌紅  杏桃処々 嬌紅を点ず
城門樓上一望處  城門楼上 一望する処
寺塔漠然朝靄中  寺塔漠然たり 朝靄の中

 
     
     
  再訪盤門              尚堂 宮崎三郎
風柔高閣映朝陽  風柔らかにして高閣朝陽に映じ
嫩栁依依花正香  嫩栁依々 花正に香し
七歳再來師與友  七歳にして再来す 師と友と
鳴禽恰恰碧空翔  鳴禽恰々 碧空に翔る
 
     
   
 隨鷲野先生赴墨客園         河野幸男
何緣相會獨吟哦   何の縁ぞ 相ひ会して独り吟哦す
文化交流感激多   文化の交流 感激多し
墨跡淋漓書畫友   墨跡淋漓 書画の友
梁塵浮動夢中過  梁塵浮動して 夢中に過ぐ
  *梁塵…形容巧妙音楽

 
     
   
 隨鷲野先生訪周秦教授於墨客園     蕗山 清水義孝
遠訪蘇州歌席同   遠く蘇州を訪ねて歌席を同じうす
親朋相見思無窮   親朋相見(まみ)へて 思ひ窮まり無し
吟聲忽滿平江畔   吟声忽ち満つ 平江の畔
墨臭緩流垂柳中   墨臭緩やかに流る 垂柳の中 
格格小禽歌舊閣   々として 小禽 舊閣に歌ひ
仙仙孤蝶舞春風   仙々として 孤蝶 春風に舞ふ
交歡相盡倍靑眼   交歓相尽して 倍(ます)ます青眼
不識瑤庭落日紅   識らず 瑶庭 落日紅なるを

 
     
   
 訪墨客園              尚堂 宮崎三郎 
深巷瑤園風月遊  深巷の瑶園 風月の遊
朗吟揮筆互相酬  朗吟揮筆して互いに相酬ゆ
姑蘇墨客溫顏溢  姑蘇の墨客 温顔溢れ
庭上玉蘭香氣流  庭上の玉蘭 香気流る

 
     
   
  墨客園與蘇州大學文人交流
   芳野禎文
吟人墨客會堂前 吟人墨客堂前に会す
和漢佳音艶又妍 和漢の佳音艶又た妍なり
相競院庭書畫技 相ひ競ふ 院庭 書画の技
正知中日赤心聯 正に知る中日の赤心聯なるを

 
     
 
  山塘河                                        溪山 薄井 
白楽天が蘇州の刺史であった時に開鑿したという山塘河を舟で虎丘に向かう。この遊覧船は人気があるらしく船乗り場の辺りは大変な人出だった。両岸に連なる碧柳と民家の白壁の眺めを楽しみつつ、蘇女の弾く琵琶を聞いている内に、忽ち寺の門前に到着した。

   
 山塘河舟遊 
   
民家白壁岸邊連  民家の白壁 岸辺に連なり
多少舒鳧遊細漣  多少の舒鳧 細漣に遊ぶ
嫋嫋琵琶傾耳裏  嫋々たる琵琶 傾耳の裏
輕舟漾漾到門前  軽舟漾々 門前に到る

 
     
   
 山塘河舟航             原 正
漾漾乘船臻虎丘 漾々船に乘りて虎丘に臻らん
連軒白壁水邊樓 軒を連ぬる白壁 水辺の楼
詩仙詠得詩材好 詩仙 詠じ得たる 好詩材  
隨處風光楊柳幽 随処の風光 楊柳幽なり
 
     
     
  虎 丘                                        溪山 薄井 隆
 正面に斜塔を仰ぎながら緩やかな参道を上り詰めた辺りに、虎丘の見どころの一つである剣池がひっそりと静まり返っていた。深い藍色の水を湛えた池は、宝剣が埋められているというよりも蛟龍でも潜んでいそうな雰囲気だ。その背後の丘の上には「東洋の斜塔」として知られる雲巌寺塔が、折からの落日の中に八角七層の壮麗な姿を見せていた。

 
   
  虎丘劍池      
綠蔓懸崖蒼氣籠 緑蔓崖に懸りて 蒼気籠め
古池謐謐夕涼風 古池謐々 夕涼の風
不知寶劍在何處 知らず 宝剣何れの処にか在る
層塔傾頭落照中 層塔頭を傾く 落照の中

 
     
   
 虎 丘            河野幸男
姑蘇城外運河涯  姑蘇城外 運河の涯
故苑荒臺詩興加  故苑荒台 詩興加わる
山上尚留塼瓦塔  山上尚ほ留む 塼瓦の塔
不知何故古來斜  知らず 何故に古来斜なるかを

 
     
     
 虎丘雲巖寺塔      原 正 
孤高磚塔秀蒼丘  孤高の磚塔 蒼丘に秀づ
古朴雄奇燦兩眸  古朴 雄奇 両眸に燦たり
緬想西施窮蠱惑  緬想す 西施 蠱惑を窮むるを
覇王何在跡無留  覇王何くに在りや 跡留むる無し

 
     
   
 訪非遺堂         河野幸男
日暮楊堤月似蛾  日暮 楊堤 月蛾の似し
小堂靜坐聽呉歌  小堂 静かに坐して呉歌を聴く
評彈昆曲江南宴  評弾 昆曲 江南の宴
弦誦怡怡逸興多  弦誦怡々 逸興多し

 
     
   
                                            清水義孝
夜、昆曲を聞きに行く。驚いたことに怪しげな細い路地をどんどん進んで行く。やがて「非遺堂」と看板のかかった小劇場に入る。三十名程度の座席がテーブルを挟んで並んでいる。昆曲と評弾を楽しんだ。歌姫の澄んだ美声と評弾の男性の張りのある低音が印象深い。ふと、詩吟に適した声だなあと思った。
   
  蘇州客夜 非遺堂聽昆曲 
阿嬌聲調甚搖心  阿嬌の声調 甚だ心を揺るがし
纏錦粧成猶不淫  錦を纏ひ 粧成るも 猶ほ淫ならず 
始聽呉歌徒莫忘  始めて聴く呉歌 徒に忘るること莫れ
餘情滿滿夜深深  余情満々 夜深々

 
     
     
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