雨後庭園信歩行 雨後の庭園 歩に信せて行けば
陽光燦燦露華淸 陽光燦々 露華清し
萬紅架下萬香溢 万紅の架下 万香溢れ
小止就花身倍輕 小しく止まり花に就けば身は倍ます軽し
縱歩庭園細雨天 縦に庭園を歩む 細雨の天
紅花妖艷百花鮮 紅花は妖艶 白花は鮮やかなり
擧頭珠露如留涙 頭を挙ぐるは 珠露 涙を留めるが如く
傾首傷心思友憐 首を傾ぐるは 傷心 友を思ひて憐れむ
瑤苑穿行風度微 瑶苑穿ち行けば 風渡ること微なり
遠來下總弄薔薇 遠く下総に來り 薔薇を弄す
就花觸手歩幽徑 花に就き手に触れて幽径を歩めば
馥郁淸香玉蝶飛 馥郁たる清香 玉蝶飛ぶ
綠蔓成門一徑通 緑蔓門を成して一径通じ
延延架下萬花紅 延々たる架下 万花紅なり
芳香馥郁四圍滿 芳香馥郁として 四囲に満ち
忽怪身方在蕊中 忽ち怪しむ 身は方に蕊中に在りしかと
紅白紫黃珠露滋 紅白紫黄 珠露滋し
追香蜂蝶自相隨 香りを追ひて 蜂蝶自ら相ひ随ふ
人人笑語盡歡去 人々笑語し歓を尽くして去れば
雨後園庭花獨奇 雨後の園庭 花独り奇なり
貴妃花發放芬芳 貴妃の花発ひて 芬芳を放ち
風到搖搖朝露光 風到りて揺々 朝露光る
若在沈香亭下苑 若し 沈香亭下の苑に在らば
艷容何必劣花王 艶容 何ぞ必ずしも 花王に劣らん
雨霽微吹風入門 雨霽れ微かに吹いて風門に入り
薔薇馥郁滿庭園 薔薇馥郁 庭園に満つ
黃紅紫白百花麗 黄紅紫白 百花麗しく
含涙搖搖胡蝶屯 涙を含みて揺々 胡蝶屯す
一苑空濛煙雨長 一苑空濛 煙雨長し
穿雲日照百花芳 雲を穿ちて日照らせば百花芳し
忽看拂露風來處 忽ち看る 露を払ひて風來たる処
紅紫搖搖映粉墻 紅紫揺々 粉墻に映ず
詩盟迎我萬花鄕 詩盟 我を迎ふ 万花の郷
輕雨如煙興却長 軽雨煙の如く 興却って長し
蝴蝶翩翻將誘夢 蝴蝶翩翻として将に夢に誘わんとし
薔薇馥郁滿園香 薔薇馥郁として満園香し
一苑萬株含潤姸 一苑の万株 潤ひを含みて姸しく
徘徊隨處獨陶然 徘徊 随処 独り陶然たり
爽風時到芳香散 爽風時に到りて芳香散ず
願且枕肱花底眠 願はくは且く肱を枕に花底に眠らん
和風吹綠葦蘆群 和風吹いて緑にす葦蘆の群
驟雨時來生水紋 驟雨時に来りて水紋を生ず
潮退潟乾禽語賑 潮退き潟乾きて禽語賑やかに
回頭天際已紅雲 頭を回らせば 天際 已に紅雲
蘆汀風爽雨餘香 蘆汀 風爽やかにして雨余香し
翠柳依依漸夕陽 翠柳依々として漸く夕陽
回首紫峰紅一閃 首を回せば紫峰 紅一閃
翩翻獨去白鷗翔 翩翻 独り去って白鷗翔る
總州湖沼正新晴 総州の湖沼 正に新晴
曉露●●暑氣輕 暁露●々として 暑気軽し
公子逆風閑獨立 公子風を逆（むか）へて閑かに独り立ち
靑蘋繁處白分明 青蘋繁る処 白（はく）分明
●は、「さんずい」に「專」の「タン」（露の多いさま）
淸遊下總夏初天 清遊す 下総 夏初の天
拂袖潮風景色鮮 袖を払ふ潮風 景色鮮やかなり
縹渺海濱詩興湧 縹渺たる海浜 詩興湧き
鷗盟忘暑賞心專 鴎盟暑を忘れ 賞心専らなり
昔是翩翩衆鳥還 昔は是れ翩々として衆鳥還（めぐ）るも
如今寂寞退潮間 如今寂寞たり 退潮の間
蘆汀乃看兩三影 蘆汀 乃ち看る 両三の影
白鷺黑鵜相對閑 白鷺 黒鵜 相ひ対して閑なり