令和六年(2024)「吟詠」 ―夏を迎えてー             


                 Eテレ 6月16日(日)16時10分~16時25分 放送

 和歌・我が宿の  恵慶(えぎょう)法師(ほうし)    (新古今和歌集250)

     我が宿の 外面(そとも)に立てる 楢(なら)の葉の 茂みに涼む 夏は来にけり 

 
私の家の外側に立っている楢の葉が茂り、その木陰で涼む夏がやってきたことだな

 
 
  逸 題         山内(やまのうち) 容堂(ようどう)
風捲妖雲日欲斜  風は妖雲を捲いて日斜ならんと欲す
多難關意不思家  多難意に関して家を思わず
誰知此裏有餘裕  誰か知らん此の裏余裕有るを 
馬立郊原看菜花  馬を郊原に立てて菜花を看る


風は怪しい雲を巻いて、日は暮れようとしている。(それはちょうど、太平の長い眠りを破って外国の艦船がわが海辺をうかがい、どのような事態が待ち受けているのか予測もつかないさまに似て不気味である。)
まことに国家の多難が思われ、家のことなど顧みるいとまもない。
しかし、自分がこういう時局にあってゆったりとした気持ちでいることを、誰も知るまい。
馬を野中にとどめて、今を盛りの菜の花を見ることもあるのだ。

 

 花月吟          藤野(ふじの) 君山(くんざん)

花屋彈琴千嶂月  花屋琴を弾ず千嶂の月
月樓弄笛萬林花  月楼笛を弄ぶ万林の花
花香漠漠花天月  花香漠々たり花天の月
月色朧朧月地花  月色朧々たり月地の花
花下哦詩君對月  花下詩を哦うて君月に対し
月前温酒我看花  月前酒を温めて我花を看る
花開花落古今月  花開き花落つ古今の月
月去月來晨夕花  月去り月来る晨夕の花

 
花見の館に琴を弾きながら、千山の上に輝く月を眺め、
月見の楼で笛を吹きながら、万木の梢に咲く花を見る。
花の香りは馥郁と広がって、天空の月に達し、
月はおぼろな光を放って、地上の花を照らしている。
風流を愛する君は、花の下で詩を吟じて月を仰ぎ、
自分は月の光の下で酒を温めて花を見る。
花は開き、また散る。その花を照らす月は昔も今も同じ。
月は沈み、また上る。その月に照らされて花は朝に開き夕べに散る。  

      
 
  
 海南行          細川頼之(よりゆき)

人生五十愧無功  人生五十功無きを愧ず    
花木春過夏已中  花木春過ぎて夏已に中ばなり        
滿室蒼蠅掃難去  満室の蒼蠅掃えども去り難し
起尋禪榻臥淸風  起って禅榻を尋ねて清風に臥せん


人生すでに五十というのに、さしたる功績のないのが愧ずかしい。    
花の盛りの春が過ぎて夏もはや半ばとなった。自分の人生も盛りの過ぎたのを痛感する。        
どこから来るのか、蒼蠅が部屋いっぱいに飛び回り、払っても追い払うことができない。
さあ、ここから立ちあがって、部屋の外の坐禅の椅子を探し、清らかな風に吹かれながら横になろう。