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新春吟詠・初春に寄せて   

令和5年1月2日(月)午前6時35分~6時50分 
     
                    鷲野正明
 
1、和歌・よもの海  明治天皇
 
よもの海 みなはらからと思ふ世に 
    など波風のたちさわぐらむ 


 世界の人はみな兄弟だと思っているのに、なぜ波風がたちさわぐのだろう。
(波風がたたない平和な世であってほしい)

 
2、七言絶句「弘道館に梅花を賞す」 徳川景山

弘道館中千樹梅  弘道館中 千樹の梅
淸香馥郁十分開  清香馥郁 十分に開く
好文豈謂無威武  好文豈に威武無しと謂わんや
雪裡占春天下魁  雪裡春を占む 天下の魁

 
弘道館の庭の千樹の梅は、いままさに満開で、馥郁と清らかな香りを放っている。梅は学問を好むと咲き、学問をやめると咲かなくなった故事から「好文木」と言われるようになったというが、武の威力はないのだろうか。
(そんなことはない。)きびしい寒さのなか、雪を冒して独り咲き出でて、天下の春のさきがけをなすのは、
まさにこの花だ。

3、七言律詩「祝賀の詞」 河野天籟

四海波平漲瑞煙  四海波平らかにして瑞煙漲り
五風十雨潤桑田  五風十雨 桑田を潤す
福如東海杳無際  福は東海の如く杳かに際無く
壽似南山長不鶱  寿は南山に似て長えに鶱けず
鶴宿老松千載色  鶴は宿る 老松千載の色
龜潜江漢万尋淵  亀は潜む 江漢万尋の淵
芙蓉之雪大瀛水
  芙蓉の雪 大瀛の水
磅礴神州輝九天  神州に磅礴して九天に輝く


四方の海は波おだやかで、めでたい瑞煙が漲っている。天候も順調で、五日に一度の風と十日に一度の雨が、ほどよく
桑田を潤している。福は東海のように際限なく広がり、寿は南山が尽きないように永遠に欠けることがない。鶴は常緑の千寿の松のうえに宿り、亀は揚子江や漢江のような深い淵の中に潜んでいる。霊峰富士は千古の雪に輝き、海水は洋々と万古に尽きることなく、このようにすばらしい瑞気がわが日本の内外に満ち溢れ、大空にまで輝き渡っている。

 4、七言絶句「桑乾を渡る」 賈島

客舍幷州已十霜  客舎幷州 已に十霜
歸心日夜憶咸陽  帰心日夜咸陽を憶う
無端更渡桑乾水
  端無くも更に渡る桑乾の水
却望幷州是故郷  却って幷州を望めば是れ故郷


 幷州に旅ぐらしすることはや十年。都の長安に帰りたいという気持ちは昼も夜もつのる。それが思いもよらず、
さらに桑乾河を渡って北へ行くことになった。振り返って幷州を望むと、いまは故郷のような感じさえする。