総(總)の平仄の考察 写真:大漢和辞典 菅原有恒 千葉県は別名「房総」、「房州」、「総州」などといわれている。この「総」字の平仄につい て、「辞書」、「韻書」、及び「実作の事例」の三視点から考察してみたい。 一、「辞書」の視点 1.大修館:諸橋徹次:『大漢和辞典』 ①去声「一送」:すべる/あう/あつまり/みな/しめ/むすぶ/つなぐ/ふさ/たば/もと ゆい/もつ/もろもろ/にはか/姓/まったく ②上声「一董」:絲の数/ぬう=「縫」/青色の 布帛=「緫」 ③上平声「一東」:あみ=「緵」 2. 冨山房:服部宇之吉他:『詳解漢和大字典』 /2-2.角川書店:小川環樹他:『新字源』 /2-3.学研:藤堂明保ほか:『漢字源』 /2-4.ベネッセ:石川忠久他:『福武漢和辞典』 ①上声「一董」:ふさ/たば/すべる/しめくくる/みな/もろもろの/おおよそ・・ ②上平声「一東」:なし 3.畏三堂:橋爪貫一編:康熙帝御製・『訓蒙康煕字典』: ①上声「一董」:のぶる/いなつか/あはす/あげまき/ふさ ②上平声「二冬」:そう/す/ぬう ③去声「一送」:そう/す(義同) 二、「韻書」の視点 1.松雲堂:石川梅次郎校編校:山陰劉豹君・『詩韻含英異同辨』/大沼枕山撰・「詩韻精英 」:*佩文韻府出典/台湾曾文出版社:江都余照春亭・『詩韻集成』/上海書店:清・湯文璐 編『詩韻合璧』./台湾曾文出版社:江都余照春亭・『詩韻集成』/佩文韻府出典 ①上平声「一東」:絲数也・縫也:(例)五総・総総 ②上声「一董」:聚也・皆也:・・・ 2.博文館:石川鴻斎:王世貞・『円機韻学活法』 ①上平声「一東」:なし:*但し「緵」で同義有り:絲数也 ②上声「一董」:なし:*但し「緫」で同義有り:聚束也 三、「実作の事例」の視点 実作の事例としては、別項の如く、鷲野会長から、十四句の事例を解説されているので紹介する。 **凡例:總:仄韻、總:平韻 ◎大沼沈山の『房山集』 二例(仄一、平一) ●鐵鋒洲 海面風收夕照閒 海面風収って夕照閒なり 寸房尺總渺茫間 寸房尺総 渺茫の間 孤鴻没處靑如黛 孤鴻没する処 青きこと黛の如し 卽我明朝客路山 即ち我が明朝客路の山 ●十二月二十九日得隨齋先生遊舟橋被寄之作若干首并山崎希賢川口東齋書悵然成咏兼寄五山星 巖両先生及舟橋秋月三首 其二 新詩細説海東遊 新詩細かに説く海東の遊 也有風光似舊不 也風光の舊に似ること有りや不や 讀到舟橋懷我句 讀みて舟橋我を懷ふ句に到る 客窗一夜夢總州 客窓 一夜 総州を夢むと ◎梁川星巖の『浪淘集』 四例(平四) ●辛丑三月将東遊題壁二首 寄蹤城市苦無閒 蹤を城市に寄せて 閒無きに苦しみ 白了顛毛塵了顔 顛毛を白了し 顔を塵了す 踰海一遊原易得 海を踰えて一遊すること原より得易し 浮空寸碧二總山 空に浮かぶ寸碧 二総の山 ●九十九里 海勢勾連上下總 海勢勾連す 上下総 千家曝網夕陽風 千家網を曝す 夕陽の風 行行九十有九里 行く行く九十有九里 一路潮聲松影中 一路 潮声 松影の中 ●龍島(七律) [四句目句] 奇嶂東屯控二總 奇嶂 東に屯して二総を控ふ ●從富津至歸去津 舟中作(七律)[一句目句] 房州行遍重總州 房州行くこと遍く重ねて総州 ◎清宮秀堅『北總詩史』 二例(仄二) ●鏑木城 [二句目句] 總房隨處據山河 総房隨處 山河に據る ●利根川 [二句目句] 一碧分明界總常 一碧分明 総常を界(かぎ)る ◎宮沢竹堂『房州雜詠』仄一例 ◎並木正韶『南游詩草』平二例 仄一例(總房と倒置) ◎上村賣剣『日本名勝詩詳解』 ●大沼枕山:南総途上 [二句目句] 眼明始見總南山 眼明かにして始めて見る総南の山 ●野田笛浦:曽我野道中 [四句目句] 馬頭飽見總房山 馬頭飽くまで見る総房の山 *使用例をもっと集める必要はあるが、以上の十四例では、仄●は 十二分の七、平○は 十 二分の七 と半々になった。 四、結 論 以上「総」字の平仄について、 これらの視点を重ねあわしてみると、「総」は、どうやら、「韻書」に掲載されているのが正しいと思われる。 ①上平声「一東」:絲数也・縫也 ②上声「一董」:聚也・皆也・合也・中也
(完) |
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平仄の考察(二) 菅原有恒 前回は、千葉県の別名「房総」、「総州」などに使われている「総」字の平仄について、「辞書」、「韻書」、及び「実作の事例」の三視点から考察した。 今回は、漢詩を作る上で、重要な「字」の平仄が、辞書によって、まちまちなことがあるので、どれを信用してよいか迷ってしまう、ということをよく聞くため、平仄の違いがどれほどあるか調べてみた。 今後、両韻字を中心に、調べてみたいと思っている。現在、調査はほぼ終わっている。 一、「辞書」の視点 1.大修館:諸橋徹次:『大漢和辞典』 2.角川書店:小川環樹他:『新字源』 3.学研:藤堂明保ほか:『漢字源』 4.大修館:鎌田正他:『新漢語林』 5.三省堂:戸川芳郎他:『漢辞海』 6.明治書院:林古溪著『新修平仄字典』 7.畏三堂:橋爪貫一編:康熙帝御製・ 『訓蒙康煕字典』 二、「韻書」の視点 1.台湾曾文出版社:江都余照春亭・『詩韻集成』*佩文韻府出 三、「字」の視点
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平仄の考察(三) 菅原有恒 ◎「字」の視点
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平仄の考察(四) 菅原有恒 一、「辞書」の視点 1.大修館:諸橋徹次:『大漢和辞典』 2.角川書店:小川環樹他:『新字源』 3.大修館:鎌田正他:『新漢語林』 4.明治書院:林古溪著石川忠久補:『新修平仄字典』 5.畏三堂:橋爪貫一編:康熙帝御製:『訓蒙康煕字典』 *辞書の韻字の読み方 ①単一の韻目:□の四隅に印がある。 注:「()」内は現代中国語の四声 ・左下:平声韻・・・・・(一、二声) ・左上:上声韻・仄韻・・・(三声) ・右上:去声韻・仄韻・・・(四声) ・右下:入声韻・仄韻・・・(一声~四声) ②両韻:同意同声韻:例(涯○:支・痲・佳) 韻目が縦に並べてある。 :同意異声韻:例○●(看:寒○・翰●) (いわゆる両韻:平仄にかかわらず使用可) ③両韻:異意同声韻:行(ゆく:庚○/・つら:陽○) 異意異声韻:中(なか:東○・あたる:) 韻目が一、二のように横に並べてある。*意味の違い等による両韻:一、二の区分によって用いられる。 *これを両韻と勘違いして用いていることが多い。 ④仮借字:意味は同じだが、借りた字:例:倉。 ・一陽○:「くら」の意、正しい。 二漾●:悼む:愴の代わりに文で用いられた。詩では「愴」を用いるのが正しい。この韻×。 *これを両韻と表示している例は多いが、韻書にはほとんど出てこない。 二、「韻書」の視点 1.台湾曾文出版社:江都余照春亭・『詩韻集成』*佩文韻府出 *一、二共に存在する字のみ用いることが肝要。 |
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平仄の考察(五) 菅原有恒 一、「辞書」の視点 1.大修館:諸橋徹次:『大漢和辞典 二、「韻書」の視点
*この二つが平仄にかかわらず用いられる! *韻目が一、二のように並べてあり、意味の違い等により一、二を区別して用いられる。 *これを両韻と勘違いして用いていることが多い。要注意です!
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平仄の考察(六) 菅原有恒 今回は、漢詩を作る上で、重要な「字」の平仄が、辞書によって、まちまちなことがあるので、どれを信用してよいか迷ってしまう、ということをよく聞くため、平仄の違いがどれほどあるか、左記の辞書を中心に調べてみた。 一、「辞書」の視点 1.大修館:諸橋徹次:『大漢和辞典』 二、「韻書」の視点 三、「字」の視点:○:平韻、●:仄韻、×:記載なし該当なし 〇「慶」意味 :一=さいわい、二=祝いよろこぶ、三=ああ 1.『大漢和辞典』 :一=去●敬 平○陽、二=去●敬 平○庚、三=平○陽 ◎妥当と思われる平仄の考察: 一=さいわい :去●敬 平○陽 四、両韻字の視点: 注:( []:中の意味のみ対象・上:平 舌:仄・掲載ページ数・×:新字源に無し) |