「 サ ザ ン カ 」 の こ と             
                                
                           宮﨑 三郎
 

   (1) 「山茶花」ではないの?

  サザンカは冬の花。船橋市の「市の木」でもあることは、ご存知でしょうか。
さて、その盛りの候に、当連盟創作講座の宿題の詩を、この花をテーマにして何とか作ろうと思い立った折に、「通常眼にする「山茶花」はひょっとして和名かも。漢名は、本当は何だろう」と疑問を持ちまして、コンパクト型漢和辞典のいくつかを見ました。しかし、どうもハッキリしません。

   (2) 漢名は「茶梅(さばい)」 (「山茶(さんちゃ)」はツバキ)

  先回りして「大漢和辞典」を開きましたら、次のようなことでした。
・漢名は「茶梅(さばい)」。樹・葉・花・実ともにツバキより小さい。
・花の姿が似ているツバキは、「山茶(さんちゃ)」と総称される。
・サザンカもツバキもチャノキ(茶)に似て飲用になるので、「茶」の名を得た。
因みに、手元の日中辞典にも「茶梅」と載っておりました(ツバキは「山茶」と)。
併せて、そもそも和名の「山茶花・サザンカ」は、「山茶花・サンサカ」の転音とも、また、「茶山花・サザンカ」の誤読とも言われていることを別に知り、この花の来し方に興味を覚えたのであります。
 
   (3) 原産は日本、 ツバキは別の「種」

  折しも、国立歴史民俗博物館の「サザンカ展」を見物する機会を得て、サザンカの来歴等を知る参考資料も入手しました。
・サザンカは、基本的には日本の固有種で(ツバキも同様)、もともとは日本の南部地域に自生。様々な品種が生み出されて、中国を初め海外へ渡り、逆に、改良されて日本に戻ってきた品種もあり(これもツバキと同様)。
・サザンカとツバキとの関係ということでは、生物分類上は「ツバキ科・ツバキ亜科・ツバキ属」とここまでは同じ仲間だが、次の下位の「種」では別の植物となる。
・我が国では、8世紀に万葉集等に登場してくるツバキとは異なり、サザンカの記録は江戸初期まで現れない。儒学者・貝原益軒の著書「花譜」(17世紀末)に、初めて漢名「茶梅」が登場。これ以降、主要な園芸書には「茶梅」が現れてくる。
* 「花譜」は月ごとに咲く花を解説したもの(サザンカは11月の項に)。
* 万葉集に登場する植物は全体で150種余りとか。


     (4) 古い漢詩には「茶梅」は見当たらず

  サザンカやツバキのあれこれを更に知りたくなり、植物関係ほか各種の参考書も読んでみました。
・サザンカは、古い漢詩にはどうも見当たらず(広く「ツバキ」に含まれて扱われていたか)。
・一方、ツバキのほうは、11世紀北宋の詩人・蘇軾の詩「山茶」に「爛紅火の如く、雪中に開く」とあり、ツバキが詩や絵画などの題材として中国でしばしば登場するようになったのは宋の時代以降のようで、左程古くはない。
・因みに、ツバキの漢字「椿」は日本流。「椿」は、中国では全く別の植物(せんだん科の香椿)で、こうした混乱は、かつて中国の古い植物図鑑を参考にして日本の植物に漢名を付したときの誤りによるものが多い模様。
* 「桂」も混乱の一例で、日本ではカツラ、中国ではキンモクセイのこと

 
   (5) ツバキとは異なる特性 (例えば、落花の時)

  サザンカの花びらは散る時はバラバラで、一方、ツバキは首からポトリと落ちます。かつて日本列島の南国から各地へ運ばれてきたサザンカは、寒風の吹くなかで、暖かな故里を思い浮かべて寂しげに花びらをハラハラと散らすのでしょうか。そして、華やかなツバキは、春の到来を知らせてくれます。

 
   (6) 蛇足ですが

  唱歌「たき火」の二番の出だしを覚えておられると思いますが、「さざんか/さざんか/さいた道、たき火だ/たき火だ/おちばたき・・・」。さて、上記の博物館資料によれば、太平洋戦争勃発後に、この出だしは問題であると歌うことが禁止されたそうです。何と、焚き火が敵機の攻撃目標になること、また、垣根のサザンカを燃やすのは無駄遣いになるというのが理由だったそうです(いやはや)。

以上