NHK Eテレ 令和8年1月 「新春吟詠・初春に寄せて」

                 放送 2026年1月1日(木)午前6時35分~6時50分

                                      解説 鷲野正明

 
和歌・わたつみの    天智天皇    万葉集巻一(15)

わたつみの 豊旗雲に 入り日さし 
          こよひの月夜 さやけかりこそ

 
大海原の上には雲が旗のように豊かにたなびき、赤く夕陽がさしている。
この美しい景色のように、今夜の月は、明るくさわやかであってほしい。

 
 祝賀の詞        河野天籟    
七言律詩
四海波平漲瑞煙 
四海波平かにして瑞煙漲(みなぎ)り
五風十雨潤桑田 
五風十雨 桑田を潤す
福如東海杳無際 
福は東海の如く杳かに際無
壽似南山長不鶱 
寿は南山に似て長えに鶱(か)けず
鶴宿老松千載色 
鶴は宿る 老松千載の色
龜潛江漢萬尋淵 
亀は潜む 江漢万尋の淵
芙蓉之雪大瀛水 
芙蓉の雪 大瀛(えい)の水
磅礴神州輝九天 
神州に磅礴(ほうはく)して九天に輝く
四方の海は波おだやかで、めでたいしるしの雲が漲っている。
天候も順調で、五日に一度の風と、十日に一度の雨が、ほどよく桑畑や田圃を潤している。
幸福は東海のように際限なく広がり、
寿命は南山のように永遠に欠けることがない。
鶴は常緑の千年の松の上に宿り、
亀は長江や漢江のような万尋の深い淵の中に潜んでいる。
霊峰富士は千古の雪に輝き、海水は洋々として万古に尽きることがない。
このようにすばらしい瑞気がわが日本の内外に満ち溢れ、大空にまで輝き渡っている。

  
新正口号        武田信玄     
七言絶句
淑氣未融春尚遲 
淑気未だ融せず春尚お遅し
霜辛雪苦豈言詩 
霜辛雪苦豈詩を言わんや
此情愧被東風咲 
此の情愧ずらくは東風に咲われんことを
吟斷江南梅一枝 
吟断す 江南の梅一枝
 新年になっても依然として冬の気配が濃く、まだまだ春は遠い。
霜や雪にいためつけられたままの景色では、とても詩を作る気にはなれない。
そうとはいえ、こんな無風流な気持ちを、吹きそめる春風に笑われるのも気恥ずかしいから、
あの陸凱が江南から一枝の梅花に添えて詩を長安の范曄に贈った故事にならって、梅の詩でも作るとしよう。

  
 春日家に還る     正岡子規     七言絶句
乘車騎馬早歸來  
車に乗り馬に騎って早く帰り来る
一謁雙親喜自催  
一たび双親に謁すれば喜び自ら催す
處處鶯啼春似海  
処々鶯啼いて春海に似たり
故園芳樹待吾開
  故園の芳樹 吾を待って開く
車に乗り、馬に騎って、急いで家に帰ってきた。
一たび両親の顔を見ると、自然と喜びが湧き上がってくる。
到るところに鶯が啼き、春の草花はまるで海が波打つように風に揺れ、
ふる里の我が家の木々は、自分の帰りを待っていたかのように、美しい花を咲かせている。