鷲野正明

23日、「范成大祠堂」を訪れました。前回訪れたのは平成14年3月で、その時は蘇州大学の院生が土地の人に場所を聞きながら訪ねました。行春橋のあたり、石湖ぞいの道路にそって塀で囲まれています。今回のその塀を通り過ぎてさらに先へ行ったところでバスが停まりました。なんとそこには「上方山国立森林公園」と題された大きなピカピカの門が聳えていました。「范成大祠堂」へは、ここで入場料を払って行かなければなりません。園内を北の方へ、新しくできた寺を通り過ぎると、懐かしい「范成大祠堂」がありました。ここは昔と同じたたずまいでした。暖かい日差しのなか、白木蓮・桃が咲いていました。「茶磨山房」は、以前来たときには寝台と残飯の入った琺瑯のボウルが放置されていましたが、今回は綺麗になっていました。「茶磨山房」に続く観音像を祀る岩窟は昔のままでした。


   范成大祠堂傍有祀観音像巖窟 
 巖窟觀音纖月眉  岩窟の観音 繊月の眉
 常望湖水慰相思  常に湖水を望んで相思を慰む
 年年柳絮晩風舞  年年 柳絮 晩風に舞ひ
 歳歳桃花斜照滋  歳歳 桃花 斜照に滋し
 

 「范成大祠堂」の門(以前はここから入った)から外へ出ると前は石湖です。ゆるやかな勾配の行春橋と少し急な越城橋が直線上に連なっているのが見渡せます。以前来たときには行春橋はなく、越城橋のたもとに大きな石碑が建っていました。その碑はどこへいったのやら。かつて訪れたとき、荷物を積んだバイクが越城橋を上れず苦労していました。見かねた学生たちが押し上げてやってバイクは橋を越えることができました。が、バイクはお礼も言わずに、さっさと去って行きました。中国とは、そういうところだと実感したことでした。
 祠堂の門のすぐ前の石湖湖畔もきれいに整備され亭が建ててありました。かつてはなかったものです。その亭には、人のソレが、木の葉でちょいとかぶせることもなく、堂々と置いてありました。まあ、これは中国ではよくあること。踏まないように歩くのが旅行の達人です。以前来たときは、越城橋を渡り石湖の畔を歩いて「余荘」へ行き、さらに湖畔を歩いて民家を訪れました。湖水にはいろいろなものが浮かび、目をそむけ鼻をおおったものです。放射線は見えないため恐怖ですが、目で見ることができ、かつ臭ってくる中国のソレは、ある意味「安全」です。
 閑話休題。漢詩は美点を見いだし、優雅に詠うのがよろしく


   
  
石 湖        石 湖
 越城盡處即行春  越城尽くる処 即ち行春
 楊柳桃花景色新  楊柳 桃花 景色新たなり
 湖水波搖橋孔下  湖水 波は揺る 橋孔の下
 鴨雛相戲共隨親  鴨雛相ひ戯れ 共に親に随ふ  

 

 「范成大祠堂」の次に「唐寅墓地」を訪れました。墓地を含めて「唐寅園」になっていました。門を入ると、敷地の両脇にいくつか石像やオブジェが建ててあります。池の中には大銭を銜えた金色の蝦蟇の像まであります。銭を銜える蝦蟇を飾ると金持ちになるのだそうです。風流才子の唐寅には関係のないことで、迷惑なことでしょう。伍子胥の石棺も置いてありました。『史記』によれば伍子胥は革袋につつまれて河に流されたことになっています。「歴史的な大発見」を見ることができ、うれしいような・・・?
「六如堂」を通って「唐寅墓地」へ。こちらは昔と変わらず土を盛ったお墓。相変わらず雑草が生えていましたが、まわりの木の枝には祈願用の紅いお守りがたくさんぶらさがり、花が咲いたようになっていました。これは日本のお神籤を結ぶのと同じ発想です。その木は「許愿樹」と言います。わざわざ看板まで立ててありました。紅いお守りは「六如堂」で作製・販売されていました。

 
    
   
再訪唐寅墓     再び唐寅の墓を訪ぬ
  金色蝦蟇淺水中  金色の蝦蟇 浅水の中
  子胥石郭馬牛工  子胥の石郭 馬牛の工
  風流才子今何處  風流才子 今 何れの処ぞ
  墓上草萌春日風  墓上 草は萌ゆ 春日の風

 
 
午後は「網師園」「滄浪亭」を訪ねました。「網師園」へはいつも十全街の方から小路を通って表門へと回って行きましたが、今回は帯城橋路でバスを降り仲店を通って表門へと行きました。はじめての路だったのでおもしろく感じました。また思わぬところに「沈徳潜故居」があり、得をした気分になりました。
    
  
 網師園        網師園
 竹外一枝軒下梅  竹外一枝軒下の梅
 横斜映水絳英開  横斜 水に映じて 絳英開く
 鳥啼飛過濯纓閣  鳥啼き 飛んで濯纓閣を過ぐれば
 白雪玉蘭風樹堆  白雪の玉蘭 風樹に堆し  

「玉蘭」は白木蓮。「竹外一枝軒」と「濯纓閣」は池をはさんで向かいあっていました。
 
 
夜は、参加学生とともに、かつて蘇州でお世話になり、国士舘大学に一年間留学した朱芸さんと歓談しました。朱芸さん、開口一番「どうして今回はこんな立派なホテルに泊まっているの?」そう、いつもは学生寮や格下のホテルに泊まっていたのです。もっとも五つ星のホテルでも、シャワーは壊れていて何も出ないわ、バスタブの栓は壊れているわで、それなりでしたが。