流山吟行会 
                              平成28年11月 3日
 
    ☆ 流山を歩く  
                                                  鷲野正明
 平成二八年(二〇一六)一一月三日、流山を散策した。

九時一五分、馬橋駅に集合。小春日和のもと、まず駅に近い萬満寺を見学。ついで流山電鉄に乗り、馬橋駅から平和台駅へ移動。赤城神社、光明院、一茶双樹記念館を見学ののち、流山キッコーマン工場の長い塀を左手に見ながら散策し、本町通りに出て、万華鏡ギャラリー、さらに閻魔堂、近藤勇陣屋跡、常与寺、浅間神社を巡った。一三時、流山駅前の大衆割烹「日本」にて昼食。柏梁体連句を楽しんだのち、再び流山電鉄で馬橋駅に戻り、解散した。
 流山電鉄のどこか懐かしい車両に乗ったり、閻魔様の木像を見たり、千葉県小学校発祥の常与寺を見学したり、浅間神社で険しい富士塚に登ったり、「日本」でまさかの獺祭を飲 平成二十八年(二〇一六)十一月三日、千葉県漢詩連盟の会員一五名と流山を散策した。んだり、とすばらしい散策だった。幹事は相澤無有氏、清水蕗山氏。新たな知識を得、参加者とのいっそうの親睦をはかることができた。

 「流山」という地名は、上州(群馬県)の赤城山が崩れて流れてきたことに因む。平坦なこの地に、なぜか小さな山があるのが不思議だ。そこでこのような伝説が生まれたのだろう。一〇メートルほどの赤城山に赤城神社があり、毎年十月に大祭が行われる。十メートルの大きなしめ縄をつくる「大しめ縄行事」は市の無形民族文化財となっている。我々が訪れたのは十一月三日の文化の日だったので、石段を登った境内には出店があり、御参りをすると、神主さんが進み出てきてお祓いをしてくれた。
  流山赤城神廟    流山赤城神廟
  其一          其の一
北總何緣有赤城 北総何に縁りて赤城有る 
上州山壊到盈盈 上州の山壊れ 到りて盈盈たりと
毎年十月大爲祭 毎年十月大いに祭を為し
十丈太綱軒下縈 十丈の太綱 軒下を縈る   
  
  其二         其の二
山門仰見大綱斜 山門仰ぎ見る 太綱斜めなるを
石磴上來開菊花 石磴上り来たれば菊花開く
拍手二回低首處 拍手二回 首を低るる処
神官進出拂凶邪 神官進み出でて凶邪を払う
 
 流山は江戸時代、みりんの醸造が盛んで、なかでも秋元家は「天晴」を醸造して財を成したことで知られる。その秋元家の跡は、安政年間の母屋が修理され、往時の庭や商家の様子が再現されて「一茶双樹記念館」となっている。秋元家五代目の三左衛門は俳号を双樹といい、俳人の小林一茶と親交があった。一茶は数十回双樹を訪ねている。石庭にしつらえられた石造りの池のほとりに、石造りの蛙が二匹腕を組むようにして楽しんでいた。双樹の墓と、一茶双樹の連句碑が光明院にある。昔はみりんの香り、今は文化のかおりが
  一茶雙樹記念館   一茶双樹記念館
大河澄水釀天晴 大河の澄水 天晴を醸し
代代守家雙樹明 代々家を守りて双樹明らかなり
遠到一茶聯句席 遠く到る一茶 句を聯ぬるの席
靑蛙閣閣引詩情 青蛙閣々 詩情を引かん
 
 明治二十二年(一八九〇)に建築された「寺田園茶圃」は、現在、世界に名を馳せる万華鏡作家・中里保子氏の作品を展示する「万華鏡ギャラリー」になっている。万華鏡をのぞき込み、ゆっくり筒を回すと美しい別世界が出現する。
  萬華鏡       万華鏡
多棱鏡裏李桃稠 多棱鏡裏 李桃稠し
筒轉翩翻黄葉秋 筒転ずれば 翩翻 黄葉の秋
白雪紛紛風意冷 白雪紛々 風意冷ややかに
薔薇香處鳥聲柔 薔薇香る処 鳥声柔らかなり
 
 閻魔堂は安永五年の創建で、閻魔の木像が安置されている。堂の前には、閻魔様と向かいあうように義賊・金子市之丞(かねこいちのじょう)と恋人三千歳(みちとせ)の墓が建っている。今日では、その墓を撫でると恋が成就するというのでパワースポットになっている。 
 閻魔堂前有盗賊墓  閻魔堂の前に盗賊の墓有り
  其一         其の一
閻魔如怒復如悲 閻魔怒るが如く復た悲しむが如し
閃閃玻窓日照時 閃閃たる玻窓 日照る時
盗賊刻名存古墓 盗賊 名を刻して古墓を存し
堂前相對碧苔滋 堂前相対して碧苔滋し

  其二         其の二
賊名金子市之丞 賊の名は金子市之丞
傍有情人石墓凭 傍らに情人の石墓有りて凭る
傳道撫碑相思遂 伝えて道う 碑を撫づれば相思遂ぐと
背堂少女供紅綾 堂に背きて少女紅綾を供す
 
 浅間神社は江戸時代初期の創建。新撰組を包囲した新政府軍が境内裏に仮本陣を置いたという。社殿の後ろには市指定の文化財・富士塚がある。富士山の溶岩を畳み、頂上には富士山に向かうように浅間神社(せんげんじんじゃ)を建てるのが富士塚の要件という。
  上富士塚      富士塚に上る
急峻攀岩極富峰 
急峻岩を攀じて富峰を極むれば
長風吹汗度靑松 
長風汗を吹いて青松を度る
眞山何處視無見 真山何処ぞ 視れども見る無し
正似楊妃不得逢 
正に似たり楊妃逢ふを得ざるに
 
 流山の見所はたくさんある。折を見てまた訪れたい。
             地 図         写 真           会員の詩