H28 春の吟行会
 
                             臼井八景を歩く 

                                                鷲野正明


 吟行する日は必ず晴天になる千葉県漢詩連盟の今年の訪問地は臼井八景である。爽やかな青空の広がる六月二日、総勢二十三名が午前十時京成臼井駅に集合した。
 午前中の行程は、雷電為右衛門の碑、星神社(臼井妙見社)、太田図書の墓、臼井八景の「城嶺夕照」、臼井八景発祥の円応寺。昼食を「田子作」で摂り、伯梁体連句ののち、印旛沼のほとりへと歩を進め、「舟戸の渡し跡」の碑を道路越しに眺め、臼井八景の「舟戸夜雨」、午後の日差しを浴びながら印旛沼を左手に見て長堤を歩き、防人の歌碑のあるあたりから町中へ戻り、長島茂雄氏が卒業した臼井小学校を経て、臼井八景「光勝晩鐘」の光勝寺を見学した。臼井駅で解散したのは午後三時。有志は、もちろん、反省会に繰り出した。
遠く都内から参加した人、杖をつきながらも全行程を歩いた方、作詩のためにと参加されたあつい思いに頭が下がる。綿密な準備をしてくれた相澤無有幹事、清水蕗山幹事、交通量の少ない路を選んで先導してくれた地元の松嵜雨休会員に御礼申し上げます。
 個人的に臼井八景を尋ねたのは八年前の平成二十年のことで、おかげで旧跡めぐりの小文を書くことができた(『新しい漢文教育』第47号)。「飯野暮雪」以外その跡とされる所に立ってみたが、今回再び歩いてみて「光勝晩鐘」の光勝寺がすっかり変わっていたのには驚いた。寺が山の上に移動していて、八年前には見られなかった鐘撞き堂が沼を臨む位置に立てられていた。平成二十五年五月建てられたものだ。また、緑に囲まれた風情あるお堂も、新たに建てられピカピカに耀いていた。それもそのはず平成二十七年五月に建てられたものだからだ。
 ふと思った。桑田海となるのは世の常。印旛沼も形が変わっているのだから、「舟戸夜雨」などの沼沿いの景勝の位置はそもそも当てにならない。位置はそのままの寺や城跡から八景のおおよその場所を推定するのであるが、寺そのものは改築もすれば改修もする。城跡も公園になったりして昔のままではない。光勝寺が移転して新しくなっても、なにも歎く必要はないのだ。八景の場所は「おおよそこの辺り」と思えばよいのだ。大切なことは、残された詩を読んでかつての風光を思い浮かべ、残された詩を読んで美しい風光を愛した先人の心に触れればよいのだ、と。
 新しい鐘撞堂から印旛沼を眺める。遠い空にうっすら二つの峯が見える。筑波山だ。
同行者が鐘を撞いた。寺の人から、近隣の方がびっくりするので撞かないでくれ、と叱られた。

     圓應寺       円応寺
  鐘樓正殿竹風涼  鐘楼 正殿 竹風涼し
  小徑閑開花紫陽  小径 閑かに開く 花(はな)は紫陽(しよう)
  石佛石碑將跪拜  石仏石碑 将に跪拝せんとすれば
  靑苔厚積正雲牀  青苔厚く積もりて正に雲牀

    舟戸夜雨      舟戸夜雨
  縹渺靑湖泛白雲  縹渺たる青湖 白雲泛かび
  長堤刈草細香聞  長堤 草を刈って 細香聞こゆ
  昔時想起舟燈點  昔時想起す 舟燈点じ
  夜雨茫茫最憶君  夜雨茫々 最も君を憶うを

    湖畔稻田     湖畔の稲田
  圖繪此邊湖水中  図絵 此の辺り 湖水の中
  遊魚潑剌送潮風  遊魚潑剌 潮を送る風
  今天燕燕掠靑稻  今天 燕々 青稲を掠め
  來往差池入碧空  来往 差池として碧空に入る

    光勝寺         光勝寺
  幾百星霜思儼然  幾百の星霜 思いは儼然
  新成堂宇耀山巓  新たに成る堂宇 山巓に耀く
  鐘声隠隠忽驚鳥  鐘声隠々 忽ち鳥を驚かし
  相促斜陽湖上妍  相い促す 斜陽 湖上に妍なるを

 
        
        
        
        
        
      
 会員の詩  こちらをクリックしてください