鷲野会長の漢詩 
 
 向島百花園    向島百花園
芒草搖風夾徑光 芒草風に搖らぎ径を夾んで光る
仰看高塔自堂堂 仰ぎ看れば高塔自ら堂堂たり
忽翻小蝶去何處 忽ち翻って小蝶何処にか去る
竹裏胡枝花僅香 竹裏 胡枝 花僅かに香る
 

 白髭祠       白髭祠
石碑寂寞古松幽 石碑寂寞 古松幽なり
文字誰看摩滅稠 文字誰か看ん 摩滅すること稠し
謖謖生風聲益冷 謖謖 風を生じて声益ます冷なり
騒人若到必悲愁 騒人若し到れば必ず悲愁せん

 
 
 白髭橋       白髭橋
墨水搖搖望渺茫 墨水搖々 望み渺茫
去來自在白鷗翔 去来自在に白鷗翔ける
小船乘客剪波去 小船客を乗せ波を剪りて去く
高塔樓邊浴夕陽 高塔楼辺 夕陽に浴せん
 
 
 水神祠       水神祠
櫻樹葉枯無客來 桜樹葉枯れて客の来たる無し
古碑白葦寂牆隈 古碑 白葦 牆隈に寂たり
石蛙處處護祠廟 石蛙処々祠廟を護る
因此隅田除害災 此に因りて隅田害災を除かん
 
 
 木母寺       木母寺
悲話昔聞今始尋 悲話昔聞きて今始めて尋ぬ
廣川咫尺不能臨 広川咫尺なるも臨む能はず
柳依孤冢石垣裏 柳は孤冢に依る 石垣の裏
靜拜雨來驚小禽 静に拝すれば雨来たりて小禽を驚かす

 

 圓德寺       円徳寺
小春猫坐寺門前 小春猫は坐す寺門の前
迂路到堂紅幟翩 路を迂りて堂に到れば紅幟翩る
八大龍王居此地 八大龍王此の地に居り
鱗蟲彫刻正翔天 鱗蟲の彫刻正に天に翔ける

 

 圓德寺庚申塔   円徳寺庚申塔
釋迦立像湛深慈 釈迦の立像 深慈を湛ふ
徹夜庚申樂可期 夜を徹する庚申 楽しみ期す可けん
光背舟型蓮座下 光背舟型 蓮座の下
三猿刻得十分奇 三猿刻し得て十分奇なり
 

 月光山正福寺   月光山正福寺    
首塚拜終過寺門 首塚拝し終はりて寺門を過ぐ
雨停日照忽銷魂 雨停み日照りて忽ち魂を銷す
寶珠龍舎水煙燿 宝珠 龍舎 水煙燿き
覆鉢九輪金色尊 覆鉢 九輪 金色尊し
 

 多聞寺       多聞寺
茅門迎俗古碑閑 茅門俗を迎へて 古碑閑なり
堂宇列軒蒼樹間 堂宇軒を列らぬ 蒼樹の間
六態地蔵姿愈麗 六態の地蔵 姿愈いよ麗しく
明王守護俯人環 明王守護して 人環を俯す

 
 
 会員の漢詩
 向島百花園
 
                 花翔 青木智江
 初冬向島百花園  初冬向島百貨園
晴晝探花渡小橋 晴昼花を探りて 小橋を渡る
胡枝蘆葦日零凋 胡枝 蘆葦 日々に零凋す
忽看赤色石榴果 忽ち看る 赤色の石榴果
野鳥啄殘皮只寥 野鳥 啄み残して 皮只だ寥たり

 
               
                     岡安千尋
 向島百花園   向島百花園  
赤卒飄飄映綠池 赤卒 飄々 緑池に映ず
黃蘆簇簇後秋衰 黄蘆 簇々 秋に後れて衰ふ
澄空一碧摩天塔 澄空一碧 天を摩す塔           
唯獨浴陽銀影熙 唯だ独り陽を浴びて銀影熙(かがや)く

 
  
                    渓侍 掛川勝司
 訪向島百花園   向島百花園を訪ぬ  
天高風爽氣逾澄 天高く風爽やかにして 気逾いよ澄み
秋老名園寂寞凝 秋老いて名園 寂寞凝る
若是吟行催夏日 若し是れ 吟行 夏日に催さば
百花繚亂乃應興 百花繚乱 乃ち応に興(さか)んなるべし

 
 
                   神雪 河野幸男
 向島百花園    向島百花園  
江郊散策百花園 江郊散策す 百花園
春夏秋冬野草繁 春夏秋冬 野草繁し
三十石碑林立處 三十の石碑 林立する処
古今墨客賦詩魂 古今の墨客 詩魂を賦す 

 
  
                  蕗山 清水義孝
 訪向島百花園   向島百花園を訪ふ 
深秋獨訪寂寥滋 秋天独り訪ぬれば 寂寥滋し
花盡名園百草萎 花尽きて名園 百草萎ゆ
墨客古碑相竝處 墨客の古碑 相ひ並ぶ処
詩情欲擬捻吟髭 詩情擬せんと欲して 吟髭を捻る

 
 
                 長島ツタエ
 向島百花園    向島百花園     
晩秋庭際日中溫 晩秋の庭際 日中温かなり 
枯草寒花興自存 枯草 寒花 興自ら存す
風動白茅搖水畔 風動き 白茅 水畔に揺らぎ
茶梅點點落柴門 茶梅点々 柴門に落つ

 
                  
                   岳城 仲野 滋
 向島百花園    向島百花園 
閑行來訪墨東園 閑行 来り訪ふ 墨東の園
秋色淸幽風雅尊 秋色 清幽 風雅尊し
芒穂燦然多野興 芒穂 燦然 野興多し
胡枝小徑至今存 胡枝の小径 今に至るまで存す

 
 白髭神社
                  岡安千尋
 白鬚神社看寺島茄  白鬚神社にて寺島茄を看る  
此地昔時能産茄 此の地 昔時 能く茄を産す
廟傍濃艷簇瓊柯 廟の傍ら 濃艷 瓊柯に簇る
詣來賽客皆停步 詣り来たる賽客 皆歩を停む
紫實凌寒逸興多 紫實 寒を凌いで 逸興多し

 
          
                  神雪  河野幸男
 白髭神社      白髭神社
衆庶常來故苑隣 衆庶常に来る 故苑の隣
千年古廟絶埃塵 千年の古廟 埃塵を絶つ
文人墨客同談議 文人墨客 同に談議し
壽老相呼定作神 寿老相ひ呼んで 定めて神と作す 

 
 白髭橋
                  
                    岡安千尋
 白鬚橋       白鬚橋         
白銀梁柱聳蒼天 白銀の梁柱蒼天に聳ゆ
車輛與人終日連 車輛と人と終日連なる
橘綠橙黃相映節 橘綠橙黄 相映ずるの節
櫻花不見水光鮮 桜花は見えず 水光鮮やかなり

 
                 
                  神雪 河野幸男 
 白髭橋        白髭橋   
深秋散策白髭橋 深秋散策す 白髭橋
堤上翩翻紅葉飄 堤上翩翻 紅葉飄る
眼下滔滔流墨水 眼下滔々 墨水流れ
西望高塔夕陽遙 西のかた高塔を望めば 夕陽遥なり 

 
 
                 蕗山 清水義孝   
 白髭橋       白髭橋 
橋架墨江連二州 橋は墨江に架かりて 二州を連ね
行人車列往來稠 行人車列 往来稠し
魔天高塔天逾碧 魔天の高塔 天逾いよ碧し
閑倚欄干獨送秋 閑かに欄干に倚りて 独り秋を送 る

 
隅田川神社
                 
                 岡安千尋 
 隅田川神社    隅田川神社  
近來河遠佰仟連 近來 河遠く 佰仟連なる
往古社祠流水邊 往古 社祠 流水の辺
遊子舟人敦信仰 遊子 舟人 敦く信仰し 
今猶祈願念綿綿 今猶ほ祈願して念ひ綿々たり

 
 
                 神雪 河野幸男
 隅田川神社    隅田川神社  
神祠鎮水墨江塘 神祠水を鎮む 墨江の塘
自古諸人承吉祥 古より諸人 吉祥を承く 
聞説將軍祈願處 聞くならく将軍 祈願する処
暴風忽止得歸鄕 暴風忽ち止みて郷に帰るを得たると

 
 
                 蕗山 清水義孝
 隅田川神社    隅田川神社   
屋葺靑銅逾肅然 屋は青銅を葺きて逾いよ粛然たり
水神廟社向千年 水神の廟社 千年に向んとす 
忽看石刻雙龜像 忽ち看る 石刻の双亀像 
定是村民久護川 定めて是れ 村民久しく川を護るならん

 
 榎本武揚像
 
                  神雪 河野幸男
 懷榎本武揚    榎本武揚を懐ふ 
君率三軍戰戊辰 君三軍を率ひて 戊辰に戦ふ
攻防死活重慈仁 攻防死活慈仁を重んず
五稜孤壘英雄跡 五稜の孤塁 英雄の跡
曾效和蘭社稷臣 曽て和蘭に效ひし 社稷の臣

 
 
 木母寺
 
                  花翔 青木智江
 木母寺梅若塚   木母寺梅若塚
故事悲歌由昔傳 故事と悲歌と 昔由(より)伝ふ 
庶民守冢不知年 庶民 冢(ちょう)を守りて 年を知らず
獨來合掌魂如在 独り来り掌を合せば 魂在るが如く
嫋嫋風吹古柳翩 嫋々として風吹き 古柳翩る

 
 
                   岡安千尋
 木母寺       木母寺   
微風度水樹陰濃 微風水を度り 樹陰濃やかなり
此地猶留慈母蹤 此の地 猶ほ留む 慈母の蹤
悲運小兒幽界裡 悲運の小児 幽界の裡
觀音靜立柳條重 観音静かに立ち 柳條重なる

 
 
                   神雪 河野幸男
 木母寺       木母寺
古刹尋來墨水汀 古刹尋ね来る 墨水の汀
千年垂柳在幽庭 千年の垂柳 幽庭に在り
蕭蕭風度搖枝處 蕭々として風度り枝を揺るがす処
嚴弔梅兒慈母靈 厳かに弔ふ 梅児 慈母の霊 

 
                      長島ツタエ
 訪木母寺梅若塚  木母寺の梅若塚を訪ぬ     
古塚空存墨水邊 古塚 空しく存す 墨水の辺       
訪來合掌意悽然 訪ね来たりて合掌すれば意(こころ)
           悽然たり

昔時母哭涙如雨 昔時 母哭して 涙雨の如し
如慰禽聲響一天 慰むるが如く 禽声一天に響く

 
 多門寺
 
                    岡安千尋 
 多門寺       多門寺    
茅葺山門迎衆民 茅葺の山門 衆民を迎ふ
傳聞往古有貍臻 伝聞す 往古 狸の臻る有りと
正尊慈愛因成塚 正尊の慈愛 因りて塚を成す
菩薩如來信仰匀 菩薩 如来と 信仰匀し

 
 
                    神雪 河野幸男
 多門寺       多門寺 
幾曲徐行斷俗緣 幾曲か徐に行けば俗縁を断つ 
葺茅忽見殿堂前 葺茅忽ち見る 殿堂の前
今猶狸塚石碑在 今猶ほ狸塚 石碑在り
供養報恩千古傳 供養報恩 千古に伝ふ

 
   
                     神邉紀子
 多門寺狸像    多門寺の狸像
古寺閑庭柿樹傍 古寺の閑庭 柿樹の傍   
陶狸恆佇望天蒼 陶狸恒に佇んで天の蒼きを望む
嘗悛惡戯正尊󠄁教 嘗て悪戯を悛(あらた)む 正尊の教へ
今使人人念幸長 今は人人をして幸の長きを念じしむ

 

                     岳城 仲野 滋
 多聞寺       多聞寺  
茅葺堂堂四脚門 茅葺堂々 四脚の門
夕陽照處古風存 夕陽照らす処 古風存す
遭災幾度能堪得 災に遭ふこと幾度か 能く堪へ得たり
千載護民恭敬敦 千載民を護りて 恭敬敦し

 
 円徳寺

                     蕗山 清水義孝 
 圓徳寺       円徳寺    
門前遮道有孤猫 門前道を遮って 孤猫有り
不動蹲据宛似招 動かず 蹲据して 宛も招くに似たり
願健投銭姿已没 健を願ひ 銭を投ずれば 姿已に没(な)し 
浄庭客絶正蕭蕭 浄庭 客絶へて 正に蕭々たり 

 
 
 
   
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