吟行参加者の詩  
   
 看東山魁夷渚白馬
          青木智江
綠陰館邸畫圖充  緑陰の館邸 画図充てり
審視方知意匠豐  審(つまび)らかに視て方に知る 意匠の豊かなるを
純白馬馳垂暮渚  純白の馬は馳す 暮に垂(なんな)んとする渚
我還共御夕陽風  我も還た 共に御す 夕陽の風

   
    中山法華經寺             蹊山 薄井 隆
綠陰深處佛堂連   緑陰深き処 仏堂連なり
加護黎民八百年   黎民を加護して八百年
祈願健康閑合掌   健康を祈願して 閑かに掌を合はせば
丁丁魚鼓響蒼天  丁々たる魚鼓 蒼天に響く

   
    中山法華經寺            岡安千尋
入門鳥囀綠逾鮮  門を入れば鳥囀りて緑逾いよ鮮やかなり
紺瓦飛檐聳碧天  紺瓦 飛檐 碧天に聳ゆ
練行苦修求道裏  練行 苦修 求道の裏
讀經聲讏颭池蓮  読経の声讏ひて池蓮颭ぐ

   
    中山法華經寺百日荒行      蕗山 清水義孝
齋戒唱經偏索眞  斎戒 唱経 偏に真を索(もと)む
嚴寒修行盡今晨  厳寒の 修行 今晨尽く 
開門眷属忽奔到  門を開けば 眷属 忽ち奔り到り
悟入不關唯案身  悟入(ごにゅう)関せず 唯だ身を案ず

   
    中山法華經寺            杉田義久
綠樹蓁蓁古刹邊  緑樹 蓁々 古刹の辺
陽光燦燦本堂前  陽光 燦々 本堂の前
佳詩欲得私祈願  佳詩 得んと欲して 私かに祈願すれば
木証幽聽初夏天  木証 幽かに聴く 初夏の天

   
    東山魁夷記念館看薔薇      杉田義久
薫風習習午陰涼  薫風習々午陰涼し
訪到紅甍八角莊  訪ね到る 紅甍八角の荘
靜寂庭園徐散策  静寂なる庭園 徐に散策すれば
薔薇馥郁滿淸香  薔薇 馥郁として清香満つ

   
    中山法華經寺龍淵橋        観水 田沼裕樹
田夫幸得好詩縁  田夫 幸いに得たり 好詩縁
淨域共尋初夏天  浄域 共に尋ぬ 初夏の天
覓句游觀晴日麗  句を覓め游観すれば晴日麗し
何須更念蟄龍淵  何ぞ須ひん 更に蟄竜の淵を念ふを

下総の国中山法華経寺に一小橋有り、龍淵橋と曰ふ。橋下水涸れ、魚鼈を見ず。橋北の左右、各おの石柱有り。試みに其の刻する所の字を読むに、右は曰く、千樹林深くして世縁寂たり、山鐘鳴り度る蔚藍の天、と。左は曰く、境幽溪邃昼猶ほ暗く、橋下未だ雲あらず龍臥の淵、と。由來及び作者詳らかならざるも、興に乗じて次韻すること是くの如し。

   
    詣法華經寺            峻嶺 津田峻一
黑門相隔俗緣情 黒門 相ひ隔つ俗縁の情
堂宇尊神百世榮 堂宇 尊神 百世の栄
聖哲法華稱立正 聖哲の法華は立正を称へ
時聞梵唄木魚聲 時に聞く 梵唄木魚の声

   
    対話竇氏              峻嶺 津田峻一
令女賢良留学生  令女は賢良なる留学生
偶陪遊宴酒杯傾  偶(たまたま)遊宴に陪して酒杯を傾く
滿州鄕里遠緣有  満州の郷里 遠き縁有り
今昔歡談友好耕  今昔 歓談して友好を耕す

   
    中山法華經寺           仲野 滋
禪院朝來鳥語柔  禅院朝来 鳥語柔らかなり 
伽藍到處綠陰稠  伽藍到る処 緑陰稠し
鐘聲隱隱薰風裏  鐘声隠々 薫風の裏 
數片白雲閑又悠  数片の白雲 閑又悠

   
    謁下総中山法華經寺       正軒 原  正
綠陰若濯法華宮  緑陰濯ふが若き法華の宮
銀杏停停聳碧穹  銀杏停々 碧穹に聳ゆ 
遠聽妙音音律刻  遠く聴く妙音音律を刻み
經聲時罷寂然充  経声時に罷みて寂然充つ

   
    東山魁夷美術館          正軒 原  正   
靜謐畫廊名品多  静謐の画廊 名品多し
靑蒼山水動微波  青蒼の山水 微波動く
深林白馬添風趣  深林の白馬 風趣を添へ
氣韻盈盈萬物和  気韻盈盈 万物和す

   
    訪東山魁夷記念館        荘石 森崎直武
庭裏薔薇香氣淸  庭裏の薔薇 香気清し
幾多繪畫壁閒盈  幾多の絵画 壁間に盈つ
綠池靑樹幽玄處  緑池青樹 幽玄なる処
白馬靜留明月傾  白馬静かに留まりて明月傾く

   
    謁日蓮宗大本山中山法華經寺    荘石 森崎直武
綠樹陰濃賽客迎  緑樹 陰濃やかにして賽客を迎ふ
五層塔上昊天明  五層の塔上 昊天明らかなり
幽聞梵唄爽風裏  幽かに聞く梵唄 爽風の裏
巡拝諸堂心自平  諸堂を巡り拝せば心自ら平らかなり

   
    中山法華經寺             八嶋渓風
風吹楠杪大堂巡  風は楠杪を吹いて大堂を巡り
嵐氣搖陽涼可親  嵐気陽に揺ぎて 涼親しむべし
立正有鄰安国志  立正鄰有り安国の志 
頭山総統碣文臻  頭山 総統の碣文に臻る
*頭山満…大東亜圏構想(德必有鄰の碑文あり)
*総統…蒋介石


   
 過聖教殿有感           八嶋渓風
恪護秘經何不開  恪護す秘経 何ぞ開かざる
唱名暮鼓木證陪  唱名 暮鼓 木證に陪す 
文華好日風過殿  文華やかなる好日 風 殿を過ぐ
門裏却醇真蹟台  門裏 却って醇(じゅん)なり 真蹟の台(うてな)

   
    與詩友訪法華經寺        芳野禎文
中山古刹白雲浮  中山の古刹 白雲浮かび
紺瓦古梁飛閣幽  紺瓦 古梁 飛閣幽なり
騷客從僧經韻響  騷客僧に従へば経韻響き
初知教義萬年悠  初めて知る 教義の万年悠なるを

   
    訪市川市東山魁夷記念館    芳野禎文 
向風装飾屋頭擎  風に向かふ装飾 屋頭に擎(ささ)げ
裏悠然騷客迎  館裏悠然として 騷客を迎ふ
廿一畫中閑白馬  廿一の画中 白馬閑なり
心魂宿筆気逾淸  心魂筆に宿り 気逾いよ清し

   
       
       
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