=作者=
梁川星巖

「遊八鶴湖」(八鶴湖に遊ぶ)七言律詩の頷聯・頸聯






書:無有 相澤克典 

今までの作品
  遊八鶴湖
五月薫風長鰕菜  五月の薫風 鰕菜を長じ
一生衾袍在菰蒲  一生の衾袍 菰蒲に在り
山明水媚看逾好  山明水媚 看て逾いよ好し
扇影衣香興不孤  扇影衣香 興孤ならず

五月の薫風は蝦や野菜をおいしくし、一生この水辺に住みたいと思うほど。山は明るく水は美しく、見るほどにいよいよ美しく、扇をゆるがし衣からよい香りのする女性たちも多く、みなが遊び興じている。
= 解 説=
梁川星巖が東金の八鶴湖で諸友と作りあった詩。
出典は「浪淘集」。題詞には以下のようにある。
同遠山雲如河野士貞遊八鶴湖。湖在東金郭外、春夏之交、遊人最盛云。
遠山雲如・河野士貞と同に八鶴湖に遊ぶ。湖は東金の郭外に在り、春夏の交、遊人最も盛んなりと云ふ。
「遠山雲如」は、名は澹、字は子発。号は裕齋、雲如山人。本姓は小倉氏。梁川星巖、長野豊山に師事し、放蕩と遊歴の生涯を送り、京都で客死した。一八一〇~一八六三。「河野士貞」は、名は秀翰。巻菱湖の門人。居は静観楼と言う。
詩は七言律詩で、全詩は以下のよう。
勝遊如此也應無  遊此くの如きこと也た応に無かるべし
來倒沙頭雙玉壺  来りて倒す 沙頭の雙玉壺
五月薫風長鰕菜  五月の薫風 鰕菜を長じ
一生衾袍在菰蒲  一生の衾袍 菰蒲に在り
山明水媚看逾好  山明水媚 看て逾いよ好し
扇影衣香興不孤  扇影衣香 興孤ならず
方悟雲如詩句妙  方に悟る 雲如が詩句の妙
東金郭外小西湖  東金郭外の小西湖
(このような景色の美しいところで遊ぶことは他ではけっしてないであろう。我々はここにやって来て岸辺で二つの酒壺を倒すほどに、酒を存分に飲んだ。五月の薫風は蝦や野菜をおいしくし、一生この水辺に住みたいと思うほど。山は明るく水は美しく、見るほどにいよいよ美しく、扇をゆるがし衣からよい香りのする女性たちも多く、みなが遊び興じている。かくして、雲如が「東金郭外の小西湖」と詠じた詩句の妙をはじめて悟ったのである。)
「雙玉壺」は、二つの玉製の酒壺。「衾袍」は掛け布団と綿入れ。「菰蒲」はマコモとガマ。「扇影衣香」は、扇の影と衣服の香り。貴婦人が多くいること。「興不孤」は興味をもっているのは自分ひとりだけではない、の意。『論語』里仁の「德不孤、必有隣」を